掛詞:発音の類似性を使い2つの意味を持たせる
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掛詞・懸詞 かけことば --

『小人たちが騒ぐので』108ページ(川原泉/白泉社 JETS COMICS)
  • コスプレ
  • てれふぉん(るるるるる)
  • カワハラ「たれそ」
  • 東(編集) 「東で おじゃる--
  • いま来むと--
  • 言ひしばかりに 長月の--
  • 有明の月を 待ちいでつるかな--
  • いかに--」
  • カワハラ「あやな!
  • 山里は-- 冬はさびしさ まさりける--
  • 人目も草も
  • かれぬと思へば--」
  • 東(編集)「大丈夫なり--
  • な心配せそ-- をり知れる--
  • 秋の野原の花はみな--
  • 月の光の匂いなりけり--」
-『小人たちが騒ぐので』108ページ(川原泉/白泉社 JETS COMICS)
  • 定義重要度2
  • 掛詞・懸詞は、発音の類似性を使って、1つの言葉に2つの意味を持たせるというレトリックです。言いかえれば「掛詞」は、表面上は1つの意味でありながら、内容上は2つの意味を含ませている技巧をのことです。

  • 効果

  • 効果1機転の利いた表現を生むことができる

  • ひとつのことばに対して、2つ(以上)の意味をもたせる。このようなことができる人は、機転の利く人だという雰囲気を出すことができます。
  • キーワード:滑稽、機知、頓知、ウィット、機転

  • 効果2意外性をもたせることができる

  • 「掛詞」によって結びつけられることとなった、2つ(以上)の単語。その結びつきは、今まで考えなかったような、斬新なものになるはずです。
  • キーワード:意外性、思いがけない、思いの外、期せずして、図らずも、偶然、予想外、意表

  • 効果3歌を手のこんだものにし、イメージを豊かにする

  • 「掛詞」を使って、歌を手のこんだものにする。そのことで、歌のイメージをより豊かにすることができます。
  • キーワード:手がこむ、複雑、豊か、豊富、豊潤、潤沢、なみなみ、たっぷり
  • 使い方
  • 使い方1文脈を断絶させる

  • 掛詞をはさんだ前後で、それまでのフレーズが「掛詞」の部分で断絶し、そのあとのフレーズが「掛詞」からスタートする。そのような機能をもっています。
  • キーワード:断絶、絶える、絶つ
  • 例文を見る)
  • 引用は『小人たちが騒ぐので』より。

    なぜか、「コスプレ」というタイトルの中で、古風な言葉づかいによる話のやりとりがされています。ちょっと分かりにくいので、「掛詞」の説明をする前に、この2人の会話を現代語に直してみます。
    コスプレ
    テレフォン (ルルルルル)

    カワハラ「誰?」

    東(編集)「 東です あなたが
    『すぐにでも行こう』と
    言ったばかりに
    陰暦九月の有明の月が出てくるまで
    待ち明かしてしまいました
    どうしてですか」

    カワハラ「ありゃ!
    山里では、冬にはその寂しさが
    いっそうまさるものです。
    今まで訪れてきた人も来なくなり、
    草も枯れてしまうと思うと」

    東(編集)「大丈夫です
    心配しないでください
    自然に花の開く時を知っている
    秋の野原の花はどれも
    月の匂いがします」

    と、直訳するとこういう感じになります。しかし、このように直訳しただけでは、意味のよく分からない文になってしまいます。これは、引用した部分に出てくる3つの和歌が、「 引喩」としてはたらいているからです。

    ですので、多少の脚色を加えながら意訳をしてみると、こんなふうになります。
    コスプレ
    テレフォン(ルルルルル)

    カワハラ「どちら様ですか?」

    東(編集)「東です。 あなたが
    『すぐにでも原稿を書きます』と
    言ったばかりに
    長い間待たされて
    待ち明かしてしまいました
    どうなっているんですか」

    カワハラ「ありゃ!
    山里での冬のように、
    私のマンガにも寂しさが
    いっそう強くなってきている。
    今まで読んでくれた人も読まなくなり、
    私の原稿も、草が枯れる
    ようになってしまうと思うと」

    東(編集)「大丈夫です
    心配しないでください
    秋の野原に咲く花が、
    自然に花の開く時を知っている
    のと同じように、
    あなたのマンガも締め切りに間に合えば、
    自然と人気が出てきます」

    と、意訳をすると、だいたいこんな所だと思います。

    …と、場面の説明にやたらと長いスペースを使ってしまいました。ここは、「掛詞」のページなんです。ようやく、その「掛詞」の説明に入ることにします。

    問題となっている「掛詞」が使われているのは、3つある和歌の中の2番目のものです。
    山里は--
    冬はさびしさ まさりける--
    人目も草も
    かれぬと思へば--

    この和歌の中にある「かれ」というのが「掛詞」になります。
    [一つ目の意味]
    →「人目がかれる」。つまり、今まで訪れてきた人が来なくなってしまう。

    [二つ目の意味]
    →「草が枯れる」。つまり、冬になると草が枯れてしまう。

    と、「かれ」という言葉に2つの意味が出てきます。ですので、これは「掛詞」にあたります。

    下に書いた「掛詞の2つのパターン」で振り分けると、今回のものは「2.一つの言葉に、そのまま二つの語の意味を兼ねて使うもの」に当たります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1同音語の多い日本語での「掛詞」
  • 日本語には、同音異義語が数多くあります。「掛詞」が和歌の中で、たくさん使われている理由は、「日本語には同音異義語が多い」ということがあります。

    この特徴を利用すると、表面上の意味と、隠された意味とを一語のなかに入れることが無理せずにできます。

  • 深く知る2「掛詞」の2つのパターン
  • この「掛詞」は、次の2つのパターンがあります。
    1. 上からの文と、下へ続く文とを、一つの言葉をそれぞれ二つの意味に使って結びつけるもの

    2. 一つの言葉に、そのまま二つの語の意味を兼ねて使うもの

    が、その2つのパターンです。

  • 深く知る3「掛詞」と「しゃれ」との違い
  • この「掛詞」は、原理的には「 しゃれ」と同じものになります。ですが、この「掛詞」は、とりあえず、まじめな効果を狙ったものです。

    しかし、「 語路合わせ」の持っている「 しゃれ」による面白さの要素も、十分に含んでいます。

    さらに。
    『レトリック連環(成蹊大学人文叢書2)』(成蹊大学文学部学会[編]/風間書房)によれば、「掛詞」は単なる言葉の洒落なのではなく、「自然の光景」と「人間の心象風景」を重ね合わせる機能を有している、と説明されています。

    このように、「掛詞」には「自然の光景」と「人間の心象風景」を重ね合わせる機能があると考えれば。引用した「人目も草もかれぬと思へば」という「掛詞」は、次のように読みとることができます。

    つまり、
    「草が枯れる」が「自然の光景」を表している
    「人目がかれる」が「人間の心象風景」を表している
    と言うことができます。

  • 深く知る4「掛詞」の弱点
  • ですが、この「掛詞」には、弱点があります。それは、中身のない形骸化した「掛詞」になりやすい、ということです。『古典文学レトリック事典』(國文学編集部[編]/學燈社)が挙げている例は、
    「あやめ」(菖蒲と文目)
    「あらし」(非じ・嵐)
    「かたみ」(形見・筐)
    「かる」(枯る・離る)
    「ながめ」(眺め・長雨)
    「なかる」(泣かる・流る)
    「ね」(根・音)
    「はる」(春・張る)
    「ふる」(降る・古る)
    「よ」(世・夜)

    というようなものです。「掛詞」には、このような決まりきった「掛詞」のパターンができてしまいました。このことは、平安時代からすでに問題視されています。

  • 深く知る5現在はふつう使わないような、古めかしい言葉を使う
  • 古語法」というレトリックがあります。引用した部分も、この「 古語法」にあたります。

    また。
    ここに出てくる和歌は、順番に「素性法師」と「源宗于」と「慈円」の作ったものです。他人の作ったものを引用しているわけで、「 引喩」にも当てはまります。

    このように、1つのシーンで2つ以上のレトリックが使われることも意外なことではなく、ごくふつうのことです。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 掛詞・懸詞
  • 参考資料
  • ●『古典文学レトリック事典』(國文学編集部[編]/學燈社)
  • 本のタイトルにあるとおり、古典文学のレトリックについて書かれた本。このページの主旨に近いものなので、とうぜん、主要な参考文献です。
  • ●『日本語修辞辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • レトリック関連ではない本で(つまり文芸として)「掛詞」を扱ったもの。そんなものは何冊でもあります。ですので、ちょっと変わった「レトリック」からの視線がある本として、これをあげておきます。
  • 余談

  • 余談1補足として
  • 補足として。
    「冬さびしさまさりける」

    というのは間違いだと思われます。
    「冬さびしさまかりける」

    が正しいはずです。なぜ、そういうことが言えるかというと、文末が「ける」になっているからです。つまり、係り結びになって、最後が連体形になっているからです。係り結びをするのは「ぞ・なむ・や・か・こそ」の5種類だけ。だから、「は」では係り結びをしないはずなのです。

    以上のことから、「は」というのは間違いだろうと思います。