諷喩:同じテーマの「隠喩」をカタチを変えくりかえす
TOPページ諷喩
関連レトリック諷喩

諷喩 ふうゆ allegory

『ヒカルの碁』2巻77〜78ページ (ほったゆみ・小畑健・梅澤由香里/集英社 ジャンプ・コミックス)
  • ヒカル「だって ねェほら
  • 碁盤には九つの星があるだろ?
  • ここ宇宙なんだ
  • そこにさ石をひとつひとつ置いていくんだ
  • 星をひとつひとつ増やすように
  • どんどん宇宙を創っていくんだ
  • まるで神様みたいだろ
  • オレは神様になるんだよ
  • この碁盤の上で
-『ヒカルの碁』2巻77〜78ページ (ほったゆみ・小畑健・梅澤由香里/集英社 ジャンプ・コミックス)
  • 定義重要度5
  • 諷喩は、同じテーマにかんする「隠喩」をカタチを変えながら何度もくりかえす、というレトリックです。

  • 効果

  • 効果1具体的に表現ができる

  • 広い意味での「接辞添加法」これには、「接頭語」「接尾語」といった「接辞」をつけるもの全てを指す用語です。ですがこのアタマの中に浮かぶ、「概念」とか「観念」とか。そういったものでは、どうしても「抽象的」な表現になりがちです。そこで、ものごとを「具体的」なものに当てはめる。そうすることで、もっとシッカリと伝えることができるようになります。そのための手段が、この「諷喩」です。具体的には、「 隠喩」」が連続して大がかりになることによって、「諷喩」をつくることができます。逆に言えば、「諷喩」は「 隠喩」」を何回もくり返しているもの、何回も積み重ねているものだということになります。
  • キーワード:具体的な、具体化

  • 効果2「諷喩」それ自体で、小さなひとつのストーリーとなる

  • 「諷喩」「 隠喩」」が連続して大がかりになることによってできる文です。なので、「諷喩」は「 隠喩」」を何回もくり返しているもの、何回も積み重ねているものだということになります。で、その結果。「諷喩」は、使われているシーンでは。小さなひとつのストーリーを作り上げているということになります
  • キーワード:ことわざ、格言、警句

  • 効果3最大まで大きくなった「諷喩」

  • さらにいうと、できる限り大きな「諷喩」をつくると。それが、1つの完結した物語となります。いいかえれば、「諷喩」によって、1つのストーリーができあがる、ということになります。「 寓言」とか「たとえ話」といったものが、これに当たります。
  • キーワード:教訓話、寓話、たとえ話、寓言

  • 効果4「諷刺」のための「諷喩」

  • 「諷喩」は、ときに「諷刺」として使われることもあります。たとえば『ガリヴァー旅行記』は、「諷刺」のために書かれたものです。「たとえ話」や「 寓言」には、とくに「諷刺」の色が強くでるものがあります。
  • キーワード:諷刺、当てつける、当てこする、皮肉る、アイロニー、諷する
  • 使い方
  • 使い方1同じテーマにかんする隠喩を連続させる

  • たとえば。「人生は旅だ」といえば、隠喩です。ですが、この隠喩をさらに広げて。たとえば「旅をしていれば、山もあるし谷もある」だとか。「つまずくこともある」だとか。その「人生は旅だ」というテーマから、いろいろな隠喩を導きだして、くりかえすことによって、「諷喩」になります。
  • キーワード:持続された隠喩、連続された隠喩、隠喩のくり返し、アレゴリー
  • 使い方2具体的なことと抽象的なことを、並行させて表現する

  • 1つは、テーマとなっていることを「具体的に」「より分かりやすく」したもの。もう1つは、もとからあった「抽象的な」「観念的な」もの。この「具体的なこと」と「抽象的なこと」という2つを、ならんで表現することによって、「諷喩」となります。
  • キーワード:(話の筋が)並行する、ならぶ、ならべる、並列する
  • 注意

  • 注意1俗っぽい言いかたになりがち

  • 自分は、こんな表現方法をしなくても理解できる。だけれども、ワザワザだれにも分かりやすい表現にしている。そんな見下した言いかたになってしまうことがあります。
  • キーワード:卑近な、俗っぽい、通俗的な、世俗的な
  • 例文を見る)
  • 例文は、『ヒカルの碁』2巻から。

    まず、申しわけないのですが。この「諷喩」にあたる部分を、ぜんぶ画像にすると、バカでかい画像になってしまいます。そういった大きさの関係で、「諷喩」になっているところの「最初の部分」と「最後の部分」だけを画像として引用しました。「諷喩」を作っている文章の全体は、右に文字として書いておきました。

    で。
    これが単に、「碁盤は宇宙なんだ」というだけであれば、「 隠喩」」にあたります。

    しかし、「星」→「宇宙」→「神様」というように連続して「 隠喩」」が重なります。そして、そのことによって、この場面だけで一つの世界を形作っています。
    ですので、これを「諷喩」ということができます。

    なお。「具体的なこと」と「抽象的なこと」とが並行している、という理論を当てはめてみると。次のようになります。

    「具体的」な側面。つまり「現実の世界」は、囲碁で対局をしているヒカルがいる。
    反対に、「抽象的」な側面、つまり「諷喩の世界」は、神のように星をならべているヒカルがいる。

    このように、この2つを合わせて考えれば。「具体的なこと」と「抽象的なこと」とが並行している表現だ、と考えることができます。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「諷喩」の受け持つ領域
  • さいしょにも、同じことを書いたのですが。

    この「諷喩」を大きな目でみるばあい。「諷喩」には、「 寓言」や「寓話」についても含めることがあります。

    そして。
    このような意味で、「諷喩」ということばを使うときには。「諷喩」が受け持つことになる領域は、とても広くなります。

    たとえば。
    「寓話」とか「たとえ話」とか、よばれるものが。すべて「諷喩」の仲間だということになります。

  • 深く知る2「諷喩」とか「隠喩」とかを、細かく分けてみると
  • 反対に。

    この「諷喩」とか「隠喩」とかいった、グループ。これを細かく分類してみると、その「たとえ」の大きさ(規模)によって、4つに分けることができます。

    つまり。
    「たとえ」の部分が、大きくなるにつれて。「 隠喩」」→「諷喩」→「 寓言」→「寓話」と、名前が進化していくといえます。

    ですが、すぐ上に書いたように。
    「諷喩」のなかに、「 寓言」や「寓話」を含めて説明することもあります。また、「 寓言」と「寓話」とを1つにまとめるということもあります。

    なので。
    これは、あくまで「細かく分類したばあい」というはなしです。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 諷喩
  • 呼び方4
  • アレゴリー
  • 呼び方2
  • 風諭・諷諭・風喩
  • 参考資料
  • ●『日本語解釈活用事典』(渡辺富美雄・村石昭三・加部佐助[共編著]/ぎょうせい)
  • 「諷喩」について、説明してある本のうち。一般的なことがまとまっている本としては、これをオススメします。ただしこの本は、「事典」というにふさわしいものです。600ページ以上ある、巨大で分厚いものなのです。そこは、覚悟してください。もちろん、600ページ全部にわたって「諷喩」の説明が書いてあるわけではないけど。
  • ●『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • 「諷喩」については、レトリック学者どうしでの目立った議論はないようです。ですので、この『レトリック辞典』に書いてあることで、とりあえずは十分のようです。
  • ●『レトリック認識(講談社学術文庫 1043)』(佐藤信夫/講談社)
  • この「諷喩」について書いてある本は、たくさんある。たくさんありすぎて、どの本がオススメなのかを書くのはカンタンではありません。そういったわけで。この本を書いておけば、とりあえず安全だろう。…と考えて、『レトリック認識』をあげておきます。
  • ●『書物—世界の隠喩(叢書 文化の現在10)』(大江健三郎・中村雄二郎・山口昌男[編集代表]/岩波書店)
  • 佐藤信夫先生の書いたもので。もうひとつ、かなりの量を「諷喩」にたいして使っているものとして。この本をあげておきます。具体的には、[隠喩と諷喩と書物(佐藤信夫)]の章です。予想以上に、あれこれと話が及んでいます。
  • ●『アレゴリー・シンボル・メタファー([叢書]ヒストリー・オヴ・アイディアズ)』(A・フレッチャー、H・F・ノース、R・ウェレック、S・C・ペッパー、F・フェレ[以上共著]、高山宏・稲垣良典・河村錠一郎・永山将史・富山英俊[以上共訳]/平凡社)
  • 残念ながら。この本は難しすぎて、うまく読みこなすことができません。ただ、『アレゴリー・シンボル・メタファー』というタイトルどおり、「アレゴリー(諷喩)」にスポットを当てているのは、たしかです。
レトリックコーパス該当ページへ
  • 余談

  • 余談1「諷喩」の定義がつくられたころ、日本では。
  • 「諷喩」というレトリック。

    これは、クインティリアヌスという人が定義です。具体的には「諷喩とは持続された隠喩である」という定義。これを編みだしたのが、クインティリアヌスなる人間です。

    そして。「諷喩」の定義としては、現在でもほぼそのまま通用するというレトリックです。

    定義のほうはしっかりしたもので、異論の余地がありません。ないのですが、問題はこのクインティリアヌスという人。この人は紀元1世紀の人なんです。日本でいえば「漢委奴国王」の金印をもらった時代。つまり、卑弥呼よりも昔の人なんです。

    そんな昔の理論が現代まで、引き継がれている。そのところに、「レトリック」という学問の強さを感じます。