引喩:既存の表現を暗に引用しつつ、それに手を加える
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引喩 いんゆ (allusion)

『封神演技』1巻10〜11ページ(藤崎竜/集英社 ジャンプ・コミックス)
  • 家臣「紂王…!

    民草には 米も麦もなく

    餓死者が多く 出ています!!

    どうか 税を軽くして下さい!!!」
  • 妲己(くす)「ばっかねーん♡

    米や麦がないのなら

    点心(おかし)を食べれば[lr]]いいじゃない♡
-『封神演技』1巻10〜11ページ(藤崎竜/集英社 ジャンプ・コミックス)
  • 定義重要度3
  • 引喩は、知られている表現を暗に引用しつつ、それに手を加えるというレトリックです。つまり、有名なフレーズを踏まえて引用しながら、独自の意味を加えることによって重層感を出すことです。

  • 効果

  • 効果1より重みのある表現ができる

  • この「引喩」を使う、その元となるフレーズは。すでに世の中に広まっている、そんな言いまわしを使います。そのため、多くのヒトが知っているフレーズが登場することになります。また、重みのある権威をもった表現とすることができます。
  • キーワード:権威、重み、貫禄、品位、品格、説得力、客観、有名、名高い

  • 効果2「引用している、いまの状況」と「引用元のシーン」との二重性が出る

  • 「いま、おかれている状況」について、ある「暗示引用」を使ったばあい。「今の状態」と「引用元のシーン」とに、なんらかの共通点があることを示すことができます。
  • キーワード:暗示する、ほのめかす、におわせる、二重・二重性、重なる、重なり合う、ダブる、連想

  • 効果3バカバカしさを出す

  • もとからある表現に手を加えることによって、バカバカしさを出すことができます。
  • キーワード:模倣、まねる、パスティーシュ

  • 効果4世の中を皮肉った、当てこすりを表現する

  • いま現在、世の中がかかえている問題。そういったものを、真正面からではなく遠まわしに批判することができます。
  • キーワード:諷刺、当てつける、当てこする、非難、批判、皮肉、アイロニー、軽蔑、嫌味、耳ざわり、気にくわない

  • 効果5もとからあった具体的な先例を使うことで、考えに弾みをつけることができる

  • 「引喩」というのは、もちろん「引用」の一種です。そして「引用」というのは、もとからあったモノゴトを使うものです。その結果、「むかしのヒトだって、こんなふうに言っているんだから…」といった言いまわしができるのです。このことから「引喩」は、考えを強めることや、補強することができます。
  • キーワード:例、たとえ、前例、先例、具体例
  • 使い方
  • 使い方1「ことわざ」、「格言」、「決まり文句」といったものを使う

  • 「ことわざ」や「格言」など、すでに使われていて多くのヒトが知っているような成語。そういったものを使うことで、「暗示引用」をつくることができます。そのフレーズがどういった事情から生まれたことが、知られている「故事」とか「箴言」のようになもの。そういったものでも、引用元を明らかにしなければ「引喩」となります。
  • キーワード:成句、常套句、決まり文句、慣用句、名言、名句、格言、ことわざ、金言、箴言、故事、成語
  • 使い方2古典となっている作品を引用する

  • 古典となっている文学作品を引用あいたばあいも、「引喩」となります。
  • キーワード:古典、和歌、連歌、短歌、本歌取り、俳句、連句、聖書、聖典、仏典、漢詩
  • 使い方3世の中に広まっている言いまわしを借りてくる

  • 「暗示引用」を使うには、よく知られている表現を借りてくることになります。
  • キーワード:借用、借りもの、写しとる、コピー、アリュージョン
  • 使い方4言葉あそびの要素がある

  • この「引喩」は、古くからある言いまわしをアレンジするものです。「引用してきたオリジナルの表現」と、「実際に使ったフレーズ」とが、「しゃれ」や「もじり」などの関係になっているのです。そういったことから「引喩」は、「ことば遊び」の要素をもっているといえます。
  • キーワード:言葉あそび、地口、しゃれ、だじゃれ、ユーモア、語路合わせ、模倣、まねる、もじる
  • 注意

  • 注意1著作権に配慮しなければならない

  • 「引喩」は、「どこから引用したのか」「だれが作ったものを引用したのか」といったことを書きません。そのため、著作権を侵害することがありえます。そういえばワイドショーとかで、「槇原敬之VS松本零士」の裁判が話題になったりするのは、この「暗示引用」を使っているためです。なお個人的な意見として、あの裁判は槇原敬之が勝ちます。なぜなら、著作物といえるほどの長い表現を使っていないからです。(かなり古い話題ですいません)
  • キーワード:盗作、剽窃、盗用、盗む

  • 注意2知識があることを、見せびらかすことになる

  • 上でも書きましたが。「引喩」は、「どこから引用したのか」「だれが作ったものを引用したのか」といったことを、明らかにしません。そのため、あまり有名ではない作品は「引喩」にはしないほうが安全です。あまりよく知られていないものを「引喩」すると、自分の知識を見せびらかす文になってしまいます。
  • キーワード:衒学的、こざかしい、尊大、ペダンチック

  • 注意3必要以上に、遠まわしにしないほうがいい

  • この「引喩」というレトリック自体が、こみ入った表現方法です。つまり、自分の考えていることをストレートに言わない。「考えていること」と「実際に口や文字で表現すること」という2つのあいだに、「引喩」という表現をはさんでいる。そのため、くどくどとした表現になりがちです。
  • キーワード:冗漫、冗長、くどくど、ややこしい、複雑、こみ入った、退屈

  • 注意4もともとの表現を、ゆがめることになる

  • 上にも、ちょっと書きましたが。「引喩」は、ダイレクトな引用ではありません。いいかえれば、引用をする側のヒトが、引用をしたいと思っている文に手を加えることができるのです。このことは、たしかに「引喩」をつかうばあいのメリットだといえます。けれども、引用する側にとって都合よくしたいために。もともとの表現とは、かけ離れたものになってしまう可能性があります。
  • キーワード:歪曲、ゆがめる、ごまかす、まどわす、いつわる、あざむく、変改、変形、ありのままではない
  • 例文を見る)
  • このページのさいしょにある引用は、『封神演技』1巻から。

    もともと紂王は、文武両道に長けた名君だった。

    しかし、絶世の美女である妲己を娶って以来、紂王は変わってしまった。なぜなら、妲己は仙人界でも指折りの仙人だったからだ。紂王は、あっという間に術をかけられ、妲己のあやつり人形にされてしまう…。

    そんな中での家臣の上奏が、引用のシーン。税を軽くするように申し立てる家臣にたいする、妲己の返事にあたる
    ばっかねーん♡ 米や麦がないのなら 点心(おかし)を食べればいいじゃない♡

    という部分が、「引喩」にあたります。

    この言葉をを目にしたとき、この言葉の下敷きになっている言葉を連想するはずです。連想してください。連想しないと「引喩」にならないので、ぜひとも連想して下さい。

    その連想するフレーズは、知っている人には当たり前の言葉です。民衆が貧困と食料難に陥った際の、マリー・アントワネットの言葉である、
    「あら、パンがないのならお菓子を食べればいいじゃないの」
    というものです。

    「本当はこのセリフはアデレード内親王の言葉だ」とか「いや、こんな言葉は誰も言っていない」というあたりの議論は気にしないで下さい。ついでに、「殷周革命を題材にしている『封神演技』の中でフランス革命の時の言葉を引用するのは、時代が逆転している」ということも気にしないで下さい。

    大事なのは、これが「引喩」だということです。上にも書いたように、「良く知られた言葉を使い、それに重ねて今の気持ちを述べる」という点が「引喩」にあたります。
  • 例文を見るその2)
  • 『美鳥の日々』(井上和郎/小学館 少年サンデーコミックス)には、こんな「引喩」もあります。

    「美鳥」という女の子は、沢村正治という一見すると不良に見える男子高校生に恋をしていた。

    が、ある日突然、沢村正治の右手が「美鳥」になった。…もう一度書きますが、沢村正治の右手が「美鳥」になった。
    なかなかすごい設定です。右手が女の子になるというのは。

    で、クラスメイトの「高見沢」が、「美鳥」を無断でネットアイドルにして、サイトを開く。そのアクセス数は50万を超えていた(4巻92ページから)。

    これに気づいた「美鳥」と正治は、高見沢の家へ直行する。そして正治は、
    「今すぐHP(ホームページ)を閉鎖しねぇと、おまえのパソコン、グチャグチャにブッ壊すぞ、コラ!」

    と高見沢をおどす。残念ながら高見沢は、おどしに屈してホームページを閉鎖することにする。だが、最後に「引退ビデオ」を撮らせてほしい!!、と言う。

    しかたがないので「引退ビデオ」を撮るのだけど、その時の美鳥のセリフが、
    • 「ネ…ネットアイドルを引退しても…

    • わ…私は …

    • 私は永久に不滅なのですっ!!

    • (4巻102ページ)

    というもの。これも、この言葉をを目にしたとき、この言葉の下敷きになっている言葉を連想するはずです。連想してください。連想しないと「引喩」にならないので、ぜひとも連想して下さい。

    その連想するフレーズは、
    「我が巨人軍は永久に不滅です」

    という長嶋茂雄のもの。ちゃんと「(×)永遠に不滅」ではなくて、「(○)永久に不滅」としている点などから見て、明らかに「引喩」です。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「明示引用」とか「暗示引用」と比べたばあいの、「引喩」の特徴
  • このページで扱っているのは、「引喩」です。そしてこの「引喩」に似ているレトリック用語として「 明示引用」「 暗示引用」というものをあげることができます。

    そこで。
    この「引喩」と、「 明示引用」とか「 暗示引用」は。それぞれ、どんな特徴があるのか。それについて、書いていきたいと思います。

  • 深く知るa「明示引用」がもっている特徴
  • まず「 明示引用」というのは、どんなものなのか。つまり「 明示引用」の特徴を、カンタンに言えば。つぎの2つを、あげることができます。
    • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておくことになる。

    • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに書き添えておく。

    という2つです。

  • 深く知るb「暗示引用」がもっている特徴
  • これにたいして「 暗示引用」の性質。これは、
    • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておかない。

    • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに明らかにしない。

    • でも引用するときには、引用する元になるフレーズを言いかえることはない。

    という3つです。このうち上の2つが、さいしょに書いた「 明示引用」との違いです。そして3番目に書いたものが、これから下で触れることになる「引喩」との違いということになります。

  • 深く知るc「引喩」のもっている特徴
  • さいごに、「引喩」のもっている特徴。これは、
    • 「どの本から生まれたことば」なのかを、引用したときに書いておかない。

    • 「だれが生みだした言いまわし」なのかを、引用したときに明らかにしない。

    • でも引用するときには、引用する元になるフレーズを言いかえるてアレンジを加える。

    という3つです。

    上に書いた2つは、「引喩」の特徴と同じです。この「引喩」で注目することになるのは、3番目の項目に書いてある条件です。

    つまり「引喩」は、もともとのフレーズに手を加えることになるのです。つまり、古くからある文をただ引いてくるのではないのです。このことを考えに入れると。「引喩」の大部分は、「パロディ」とか「地口」とかと変わりないものだということができます。

  • 深く知るd「ぜんぶまとめて」
  • このように。「 明示引用」「 暗示引用」「引喩」の3つには、重なりあった部分があります。もちろん、ここまで書いてきたとおり、違いがあるのはたしかです。ですがその特徴は、かなりの部分で同じといえます。

    そこで、「 明示引用」「 暗示引用」「引喩」というの3つをまとめて。「「 引用法」という名前のレトリック用語を作るのが、ふつうです。

  • 深く知る2「引喩」がもっている、「ほのめかし」の効果
  • 「引喩」は、引用したいと考えている文を、そのまま抜きだして使うものではありません。「引喩」では、引用することになる文に、なんらかの手を加えられます。

    それは、引用をするヒトが「むかしからの使いかたではピッタリしない」と思ったからなのか。それとも、引用するヒトが「何も手を加えないと伝わりにくいことを、シッカリと効果的に伝えたい」と感じたからなのか。それは、ハッキリとは分かりません。

    いずれにしても「引喩」は、「そのままの引用ではない」ものです。そのため、その「引喩」を投げられた聞き手や読み手。そういった人たちが「引喩」だと気づいてくれるということには、限度があります。

    そのことを含めて考えると。引用の元となる「慣用句」「ことわざ」「有名な短歌や俳句」などのものは、できるだけ有名でよく知られたものを使うのがベターだと思います。

    まあ、もしも。難しい「引喩」をつかって話したとしても、その難しい「引喩」を使った文を理解することのできる聞き手・読み手だとすれば。このような受けとることのできる教養が備わっているのがちゃんとそのフレーズを使ったとしても、問題ありません。

    むしろ。
    ある表現が「引喩」を使っている、と読み手・聞き手が感じとることができたとき。そのときに、「引喩」が100%の力を発揮できます。読み手(聞き手)と書き手(話し手)とが、おなじものを感じとっているということがわかったとき。読み手と聞き手とが、同じ世界を享受することができる、と。そのように思います。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 引喩・引喩法
  • 呼び方3
  • 暗示的言及
  • 呼び方1
  • 隠引法
  • 参考資料
  • ●『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)
  • 「引喩」の説明に、それなりの量をつかっている。そして、一般的なことに紙面を割いている。そんな書籍をあげるとすれば、この本になります。ただし。このサイトでの説明と定義とは、かなり違います。まあ、うちのサイトにある「明示引喩」と「暗示引用」の説明が、やたらマイナーで。そのために、「明示引用」とか「暗示引用」とかいったレトリック用語の使いかたをしている文献が少ない。そのため、このサイトで書いてあることと比較したりすると、ふやみに混乱してしまう可能性がある。そういった点については、ご注意ください。