破格構文:文法に反するような文を意識的に作る
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破格構文 はかくこうぶん anacoluthon

『紳士同盟†(クロス)』1巻124ページ(種村有菜/集英社 りぼんマスコットコミックス)
  • [十夜の手紙]

  • ( 灰音様へ…
  • 閑雅様とお話されては
  • いかがですか?
  • 午後1時にシャチのショー会場にて
  • ご休憩をとられる予定です。
  •          十夜)
  • 灰音(これは…っチャンス!!)
  • (生徒会室だと
  • 真栗がうるさいし

  • 仲直りが十夜君

  • ありがとう!!)
  • [混乱]
-『紳士同盟†(クロス)』1巻124ページ(種村有菜/集英社 りぼんマスコットコミックス)
  • 定義重要度2
  • 破格構文は、文法に反するような文を意識的に作ることです。つまり、文法から見るとルールから外れていることになる破格の表現をあえて使う。そのことによって、効果を上げようとすることです。

  • 効果

  • 効果1登場人物の気持ちが高ぶっていることをあらわす

  • 感情が高ぶる。すると、ことばを文法にしたがった正しい順番どおりに並べることが、難しくなってきます。このようすを表すのが「破格構文」です。
  • キーワード:高ぶり、興奮、募る、刺激、エキサイト

  • 効果2読んでいる人に、違和感をつくりだす

  • 「破格構文」をつかうと、普通の文法から外れた表現となります。そのため受け手(読み手・聞き手)は、今までにはない落ち着かない感じを受けとることになります。
  • キーワード:違和感、首尾一貫性を欠く、破綻、ねじれ、よじれ、屈折、折れ曲がる、曲折、ゆがむ、ゆがめる

  • 効果3受け手の興味をひく

  • 「破格構文」を使う。それによって、文法のルールにはない表現をつくりだすことになります。そのため、受け手(読み手・聞き手)の興味をひく表現に仕上げることが出来ます。「破格構文」は、たしかに単に言いまちがえや混乱によっても起こりえます。ですが、表現者(話し手・書き手)が意図的にルール違反を作りだすこともできます。
  • キーワード:興味、関心、好奇心、探究、注意をひく、注意を喚起する、気配り

  • 効果4話をしている人が混乱しているようすをあらわす

  • 紙に書いて伝える書き手のばあいは、それほどでもありません。ですが、ふつう紙に書かない話し手のばあいは、このようにはいきません。混乱したり注意がそれたりして、文のまとまりが一致しない文が生まれるのは、よくあることです。
  • キーワード:混乱、乱れる、かき乱す、乱す、かき回す
  • 使い方
  • 使い方1文法のルールに反した文を作る

  • 単語が組み合わさって、句や節をつくる。そして、句や節をもとにして文が成り立つ。そうやって一つの文を作っていくなかで、どこかでルール違反が起きてしまった。そのために、文法から考えると正しくない文章が出来上がってしまった。そのような文が、「破格構文」というレトリック用語で呼ばれるものです。
  • キーワード:ルール違反、食い違う、外れる、ズレ、ズレる、齟齬、逸脱、それる、脱線
  • 注意

  • 注意1誤りのあるフレーズだと思われかねない

  • 「破格構文」は、いままでの文法からでは考えられないような言葉づかいをするものです。そのため、受け手(読み手・聞き手)が「これは間違いだ」と思う危険性もあります
  • キーワード:誤り、間違える、間違う、間違い、誤る、失敗、思い違い、勘違い、見当違い、見間違える、誤解、早合点、思い違い、誤用
  • 例文を見る)
  • 引用は、『紳士同盟†(クロス)』1巻から。

    主人公は、灰音(はいね)。彼女は、生徒会メンバーの1人。そして、生徒会長の閑雅(しずまさ)に心を寄せている。

    しかし、とある事情から閑雅(しずまさ)を怒らせてしまい、一言も話をしてくれなくなってしまう。

    そんな中で、生徒会の手伝いをしている十夜(とうや)から手紙が届いた。それが引用のシーンです。

    見てのとおり、日本語がヘンです。
    仲直りが十夜君

    という言葉づかいは、どう見ても文法に違反しています。

    そして、下に「混乱」と書いてあることから分かるように、これは灰音(はいね)の心が動揺していることを表しています。
    ですので、「破格構文」ということになるわけです。
  • 例文を見るその2)
  • 『ラブ★コン』4巻165ページ(中原アヤ/集英社 マーガレットコミックス)
    • のぶちゃん「リサ
    • 大谷くんは?」
    • リサ 「 あー 大谷?
    • 大谷は 熊カレー……
    • のぶちゃん&中尾っち(…)


    ここからは、『ラブ★コン』について書くことになるのですけれども。

    ここで問題としたいのは、主人公の「小泉リサ」という女の子が使ったセリフです。

    このセリフが用いられることになったシーンを説明するのは、ネタバレがありますが続けます。

    とりあえず、「大谷」というクラスメイトの男の子がいて、彼に関するセリフだということだけ書いておきます。…あとは察してください。

    とりあえず、
    「大谷は 熊カレー……」

    という「小泉リサ」のセリフについて書きたいのです。なお、「熊カレー」というのは商品の名前です。

    ここで、「大谷は熊カレーを(~した)」とか「大谷は熊カレーが(~だ)」という会話は、文脈から成立しないのです。

    それを詳しく説明するのは、あまりに長くなるので勘弁してください。

    で、ここからが私の思うところなのですが。
    結論から書くと、
    「破格構文」と「 頓絶法」とは、レトリックとして近くにある

    ということです。

    頓絶法」について確認しておくと。言いかけていた話を、途中でやめるというレトリックが「 頓絶法」です。「ためらい」「怒り」「気持ちの高ぶり」などによって、その人が言葉を続けられなくなった。そのような表現です。たいていのばあい、ことばの最後に「……」とか「——」とかいう記号がつきます。

    では。問題となっている、
    「大谷は 熊カレー……」

    というセリフ。これは、「破格構文」なのでしょうか。それとも「 頓絶法」なのでしょうか。

    …ハッキリいって、こんなのは区別できません。

    このセリフが、文法からすれば間違っているのはたしかです。「大谷」は人間なんだし、「熊カレー」は缶詰めの商品なんだから。そういうわけで、主語と述語の使いかたを間違っている「破格構文」の文だともいえます。

    けれども、このセリフを「言いかけて、ことばを詰まらせている」と見ることもできます。つまり、言いたいことは「大谷は、くまカレーを……」とかいうのと同じ。でも、最後に「を……」というような単語がなかったばっかりに、典型的な「 頓絶法」っぽくない文になっているだけ。そのようにも、いえます。

    ですが、じつは。
    「破格構文」と「 頓絶法」というのは、近くにあるレトリックなのです。

    頓絶法」の側から説明をすると。「 頓絶法」は、話を途中までしかしないで、あとは切り上げるかたちになります。ですので当然、文が完結していないものとなります。それは、文法から見れば「最後まで書かれていない」というルール違反の文になるのです。それはつまり、「破格構文」の文ということです。

    逆に「破格構文」の側から説明すると。「破格構文」は、文法のルールから外れている文をいいます。ですのでその中には、文の後ろの部分がなくなってしまっているというタイプもあります。このタイプは、セリフを話している人が「途中で言いよどんだ」とも受け取ることができます。それはつまり、「 頓絶法」の文ということです。

    「破格構文」が、文の成り立ちに注目した定義になっている。それにたいして「 頓絶法」が、話し手の気持ちに着目した定義になっている。ただ、それだけの違いがあるというだけです。

    まあもちろん。「破格構文」は、文の後ろの部分がなくなっているというタイプばかりではありません。画像を引用してきた、
    「仲直りが十夜君」

    の後ろに何が続くのかと聞かれても、それは分かりません。この引用を、文の後ろがなくなったタイプの「破格構文」と考えるのには無理があります。

    ですので、「破格構文」と「 頓絶法」とがピッタリ重なり合うというわけではありません。ですが、この2つがわりと近いところにあるということも、たしかなことです。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「破格構文」の文法違反
  • たしかに「破格構文」は、あえて文法に反するような書きかたをするレトリックです。つまり、それはワザとしていることです。決して、文法の力が足りないことから生じているわけではありません。

    ただし、かたちの上で「破格構文」が文法に違反しているということは事実です。なので、読み手に対して「間違った文章を書いている」という誤解を与えかねない、微妙なレトリックです。実際に使うときには、そういったことにも注意する必要があります。

  • 深く知る2文法でいう「破格構文」
  • 文法で、「破格構文(anacoluthon)」といったばあい。それはふつう、文法と比較して考えたばあいには、「うっかりしていて」文法ルールに違反してしまったことをいいます。そして、この「うっかりミス」というのは、大きく分けると2つのパターンに分けることがます。

    1. ことばの知識が不足していることから、文法にミスが出てしまったパターン

    2. 話しことばの中で、文法どおりにことばを使わなかったパターン

    という、2つのパターンです。そして、ここで注目しておきたいのは、「2.」のほうです。

    それはナゼかというと。
    人間が話をするために、ことばを使う。
    そのときには、文法のルールどおりに話をすることは「ほとんどありえない」

    からです。
    たとえば、
    話をしているうちに、べつの考えがアタマの中に浮かんできた。

    なので、話をしている途中に、最初に話している文を止めてしまう。そして、頭に浮かんできたことを話しはじめる。

    といったことは、ざらにあります。ほかにも、
    話の途中で、相手が割りこんで話しはじめた。なので、自分の話は、とちゅうで打ち切った。
    このように、話しことばの中では、文法の規則どおりではないような表現ばっかりです。そして文法のルールに照らして考えれば、このようなものでも「破格構文」といえます。

    ですがレトリックでは、こういった文法でいう「破格構文」とちょっとニュアンスがちがいます。ふつうレトリックの世界では、そういった文法のルールに対する違反を、わざと表現として使うことを指します。

    なので、どうしても。
    レトリックで言う「破綻構文」というのは、書きことばのほうに多く出てくることになります。まあ、とても話が上手であれば、話しことばでも「わざと」ミスをすることも考えられます。ですがどうしても、1回きりで終わってしまう「話しことば」よりも、書き直しができる「書きことば」に重心がおかれているといえます。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 破格構文・破格文
  • 呼び方3
  • 超格法
  • 呼び方1
  • アナコリュート・統辞破綻法、筋かい構文
  • 参考資料
  • ●『修辞学の史的研究』(原子朗/早稲田大学出版部)
  • 「破綻構文」と「超格法」というレトリック用語は、完全に一致するものではない。そのようなことが書いてある本です。
  • 余談

  • 余談1「のんぶる」について
  • とくに、なにかを意図したわけではないのだけれども。
    なぜか、「余談」に書くことになる2つのトピックスが、両方とも「印刷業界の用語」っぽいものになりました。

    「ノンブル」とは。

    フランス語の「nombre」のことで、英語でいうところの「number(ナンバー)」にあたります。なので、「番号」とか「順番」とかいった意味の単語です。

    なのですが、とくに「印刷業界」では。
    「ノンブル」といえば、「ページ数」のことをいいます。つまり、それぞれのページの外側に書いてあるページ番号のこと。これを「ノンブル」といいます。

    しかし。
    この、『紳士同盟†(クロス)』というコミック。この「ノンブル」(=ページ番号)が、ちっとも印刷されていない。なので、引用しようとしているところが、いったい何ページ目なのかが全然分からない。

    そのため。
    124ページも紙をめくって、何ページ目からの引用なのかを確認というハメになりました。これは、ひと苦労でした。

    …「裁ち切りが、あまりに多すぎる」。この「裁ち切り」というのも、「印刷業界の用語」なのか…。…。

  • 余談2「だがー」について
  • 「ダガー」とは。

    英語で、「短剣」だとか「短刀」といった意味をもつ単語です。つづりを書けば、「dagger」です。かなり前になりましたが、秋葉原で連続殺傷事件がありました。あの犯人が持っていたのが、ダガーナイフ。つまり、「ダガー」です。

    なのですが、とくに「印刷業界」では。
    「ダガー」といえば、「†」のことをいいます。とくに、「参照してください」ということを示すために使われたりします。そういったことはともかくとして、この「†」という記号(約物)を「ダガー」と呼びます。そしてこの記号(約物)は、「短い剣」をかたどったものです。

    しかし。
    この、『紳士同盟†(クロス)』というコミック。この「ダガー」にたいして、「クロス」という意味があてられている。というよりもむしろ、「クロス」というルビをふった記号(約物)が、「ダガー」になっている。

    そのため。ものすごく、違和感があるのです。

    たしかに。
    単行本の表紙につけられている「タイトルロゴ」は、どうみても「十字架」です。まちがいなく、「十字架」です。なので、「クロス」という読みかたをするのは、ごくあたりまえの自然なものです。

    しかしながら。
    「扉」。——本を開いてすぐの、タイトルが書いてあるページのことです。
    「奥付」。——本のいちばん最後のほうにある、出版社とか著作者とか©マークとかが書いてあるページのことです。

    そこを見てみると。
    そこには、たしかに「紳士同盟†」と書いてあります。

    このサイトを見ているかたの多くは、たぶんブラウザが「ゴシック体→」での表示になっているので、すこし分かりにくいかもしれません。

    でも、このコミックは「明朝体→」で印刷されています。
    ですので、この記号(約物)が「ダガー」だということは、疑うべくもありません。

    しかし。
    • 「†」=「ダガー」=「短剣」。

    • 「クロス」=「十字架」。  (「×」みたいな「交差」についても「クロス」と呼ぶけれども。)

    この2つは、違うものだと思うのです。

    なんだか。
    やっぱり、「マンガ家さん」と「DTPオペさん」とのあいだには、深くて果てしないミゾがあるみたいです。

    もっとも。
    「†(ダガー)」は、そのかたちが「十字架」に似ています。そのことからの連想で、「人が亡くなった年」とかの前に「†」を記号(約物)つけることもあります。また、「もはや今は、使う人がいなくなってしまった言語」という意味で、この「†」をつけることもあります。このあたりについて、くわしくは「ウィキペディア」にある「短剣符」のページも、ご覧ください。

    そういうわけで。
    「†(ダガー)」を使うということが、「明らかな間違い」だとは言いづらいのは、たしかです。けれども、やっぱり違和感があるんだよなあ。

    まあ、そうはいっても。
    「†」でなければ、どの記号(約物)にすればよいかというのも難しいです。どうも、「十字架」をあらわすような、うまい記号(約物)がないのです。

    「+」(プラス:計算記号)、「┼」(ケイ線の十字記号)、「十」(漢数字の10)。…やっぱり、どれも違います。ぜんぜん違います。そもそも、「漢数字の10」は記号(約物)ではありません。

    ですが。
    残念ながら、「十字架」をあらわすような記号(約物)は、そもそも存在しないのです。さいきんはunicodeで組版しているのでしょうか? だとすれば、たとえば、「✝」だとか「✚」といったあたりは「十字架」をあらわすためのものです。

    私は組版の現場を離れて久しいので、これ以上は分かりません。勘弁してください。

    …そういえば。「約物」っていうのも、「印刷業界の用語」なのか…。