異義復言:同じことばを違った意味でくり返し切り返す
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異義復言 いぎふくげん antanaclasis

『春行きバス』1巻107-108ページ(宇佐見真紀/小学館 Betsucomiフラワーコミックス)
  • 西島「 …… なんやねん
  • (こんな遅くに)」
  • 麗奈「なんかあったら
  • 来てえ 言うたやろ」
  • 西島「(沈黙)
  • ええ加減に せぇ
  • さっき自分のお母さん
  • 帰って来てたん見たぞ
  • ひとりちゃうやろ」
  • 麗奈「ちゃうけど「ひとりやもん」
-『春行きバス』1巻107-108ページ(宇佐見真紀/小学館 Betsucomiフラワーコミックス)
  • 定義重要度3
  • 異義復言は、同じことばを、違った意味でくり返すレトリックです。「同じことば」を「違った意味」で使い分けることになります。言いかえれば、ある言葉を「同じ文」もしくは「すぐ近くの文」で、別の意味や用法としてくり返すことです。

ことわざの中では、「酒は飲んでも飲まれるな」というのがあります。これも、「飲む」という言葉の「異義復言」です。
  • 効果

  • 効果1向かい合わせで言い合っている相手のことばを、とって切り返す

  • 相手の言ったことには、少しかたよりがあると思う。もしくは、かなり間違っていると思う。そういった思いをアピールしたいときに、相手の使ったコトバの意味を少しだけ変えて使う。
    つまり、相手の使ったコトバを、ズラして使いなおす。それが、「異義復言」と呼ばれるレトリックです。そういうわけなので、どちらかというと対話のようなお互いが面したシーンでの効果が大きいといえます。
  • キーワード:とって切り返す、切って返す、言い返す、応酬、対話、言い合い、話し合い、掛け合い、語らい、話、会話、対談、対話、面談、論争、議論、論議、論戦、激論、百家争鳴

  • 効果2意表をついた表現となるので、相手を一瞬とまどわせる

  • 相手の使ったコトバを用いていながら、それでいて相手が使ったのとは違った意味になっている。そのため相手は、思いがけない奇襲を受けたような感覚を味わうことになります。
  • キーワード:とまどわせる、戸惑う、眩惑

  • 効果3ありきたりな表現にスパイスを加える

  • 「異義復言」は、コトバが持っている「わずかな意味の違い」を使うというものです。そのため「異義復言」を使うヒトからは、機転のよさを感じとることができます。なぜなら、そういった「わずかな意味の違い」に目を向けていて、それを利用することができるという能力を備えていると思わせられるからです。また、このような機転のいいコトバのやりとりからは、軽い驚きやユーモアを感じとることもできるでしょう。
  • キーワード:機智、頓知、ウィット、当意即妙、機転、驚き、息をのむ、はっとする、恐れ入る、びっくり、あっといわせる、舌を巻く、驚嘆、(印象が)鮮明、はっきり、くっきり、きわやか、さやか、ありあり、鮮やか、澄明

  • 効果4同じ音が連続するという心地よさ

  • 「異義復言」では、同じコトバが(すこし別の意味で)くり返されます。同じコトバというのは必ず同じ発音だといえますので、「異義復言」を使ったばあいには同じ発音のコトバがくり返されるということになります。
    そして、同じ発音のコトバがくり返されれば、必然的に同じ音が続いてあらわれることになります。したがって「異義復言」は、同じ音が連続して出てくることによるリズミカルな感覚を味わうことができるという面も持っています。
  • キーワード:同音の連続、リズミカルな展開、歩調、足並み
  • 使い方
  • 使い方1同じ文の中、またはすぐ近く文で同じ言葉を使う

  • 下にあるからまでの項目を、全て満たしているものが「異義復言」となります(は別)。

    「異義復言」でターゲットになるコトバは、お互いがすぐ近くの場所に置かれます。多くのばあいは、ひとつの同じ文の中になります。そうではないばあいにも、ほとんどのケースでは、次の文に置かれます。
  • キーワード:一つの文、一つの節、一つの文脈、同一の文、同じ文の中、共通した文、隣接した所、接した場所、すぐ近くの文、次の文、次いで
  • 使い方2あえて、同じ言葉を近くでくり返し使う

  • ふつう文章を書く場合には、まったく同じコトバをくり返すのは控えられます。つまり、すぐ近くで完全に同じカタチをした語をくり返しならべることは、避けられるのです。というのは、文章が単調で味のないものになってしまうからです。ですが「異義復言」では、そういった同じコトバの連続というかたちを、あえて使います。
  • キーワード:同じ言葉、同一の言葉、同語、同一の語、ひとつの語、同一語、同じ語、共通の語、同じ語の反復、重ねて用いる、繰り返し用いる、語を繰り返す、重複
  • 使い方3別の意味・用法を実現して、ふたつの事物やふたつの観念を示す

  • くり返し出てきたコトバが、同じことを意味していたのならば。それでは、レトリックと呼ぶような深みのある表現は生まれません。そうではなくて、くり返し使われているコトバの、それぞれの意味にビミョウな違いがあるというのが重要です。
    同じひとつのカタチをしたコトバが、意味を変えながら違った意味であらわれるというところに、このレトリックのポイントがあります。
  • キーワード:(前と意味が)違う、ずれる、食い違う、齟齬する、乖離する、異なる意味、別々の意味、別々の用法、別の意味、別の意義、おのおの、各個、個々、それぞれ、ひとつひとつ、個々別々、一義的に用いない、意味の二重性、複数、ダブル、多元、二つの意味、重なる、重層、意味をすり替える、替える、交替、入れ替える、差し替える、多義性、異義、異なるいくつかの語義
  • 使い方4本来の意味と、比喩の意味とで別の意味をつくることが多い

  • この4番目のものは、「異義復言」を作るのに必ず求められるものではありません。ですが多くのばあいの「異義復言」では、くりかえされるコトバが「本来の意味」と「比喩の意味」とで使い分けられていることになります。
    たとえば、あるコトバが最初に出てきたときには「本来の意味」で使われ、そのあとに再び出てきたときには「比喩の意味」で使われる、といったことです。
  • キーワード:本義と転義で使い分けることが多い
  • 注意

  • 注意1不可解な感じが、インチキ臭い印象を生むことがある

  • この「異義復言」を使うと、「不可解」「摩訶不思議」といった感じを招きやすくなります。そして、その「不可解」な印象は、往々にして「インチキ臭い」というものをともないやすいので、注意が必要です。
  • キーワード:不可解、疑わしい、いわがわしい、不審、あやしい、奇怪、いかがわしい、うさんくさい、不思議、不可思議、摩訶不思議、なぞ、神秘、ミステリー、ごまかす、まやかし、くらます、陥れる、はかる、はぐらかす、いいふくめる、偽る、ぺてん、トリック、矛盾感、撞着、背反

  • 注意2わざとらしさを生みやすい

  • また「異義復言」を使うと、わざとらしい感じの文になってしまいがちです。これは、ふだん生活している中で「同じコトバを別の意味で使ったら、気の利いた表現になる」なんてことは、ほとんどないからです。そのため「異義復言」は、かなりのばあいが「人間によって創られた作品」に出てくるものになります。

    このことから、どういても「わざわざ人がこしらえった」という印象が出てきやすいのです。そのことは、小説のような文字だけのものに限りません。映画や演劇のような映像・音声のあるものについても、台本がある限り当てはまります。もちろん、マンガについても当てはまります。
  • キーワード:わざとらしい、わざわざ、とってつけたよう、ことさら
  • 例文を見る)
  • このページの、いちばんはじめの画像。これは、『春行きバス』1巻の収録されている短編「3rd Bus Stop 迷子とバスの眠る街」からです。

    主人公は麗奈。今年から高校生になった女の子。
    麗奈は、新しくバス通学を始めたことをきっかけにして、あるバス運転士と知り合いになる。そして、麗奈が住んでいるマンションの隣部屋に、その運転手が住んでいることを知ってから親しくなる。その運転士が、西島。

    西島は、麗奈の母親が離婚していて、いま麗奈は母親と2人だけと暮らしていることを知る。そして、親しくなった麗奈に、
    「ひとりでなんかあった時は、呼べ。その時だけは来てもええ」

    と告げる。

    そんなある晩。
    その麗奈に「なんかあった時」が起こる。母親が麗奈に、再婚したいと言ったのだ。麗奈だって、ひごろの母親の言動からそのことは、うすうすとは気づいていた。でも、面と向かって告げられ、どうしていいかわからなくなってしまう。

    これを「なんかあった時」だと思ったのかどうかは、分からない。けれど、とにかく麗奈は、マンションの隣室にいる西島のもとをたずねる。それが、引用のシーンです。

    西島は、こう考える。「ひとりでなんかあった時は呼んでいい」とは言った。でも今は、麗奈の母親が帰ってきているのだから、[[spbひとりではない。とまあ西島は、そう思うわけです。

    たしかに麗奈の母親は、マンションの家に帰ってきています。麗奈に再婚の話をしたのはマンションの中なのだから、まずまちがいなくマンションにいるのでしょう。

    けれども、ここで麗奈は言う
    「ちゃうけど
    ひとりやもん」

    というこのセリフが、「異義復言」となります。

    もしも、今回引用したシーンに出てくる「ひとり」がすべて全くおなじ意味のものであったとしたら。それは、意味の分からないものになってしまいます。なぜなら麗奈は「わたしはひとりではないけれど、ひとりだ」と主張しているのだから。

    ですので、ここに出てくる「ひとり」の意味。これについては、それぞれ分けて考えざるを得ません。そうすると、最初に出てくる「ひとりちゃうやろ」のほうは、ただ単に「ひとりしかいない」という意味だといえます。

    これにたいして、「ひとりやもん」というほう。こちらは、麗奈自身が抱いているモヤモヤした置きどころのないキモチを共有してくれるような人が誰もいない、という意味で「ひとり」だといえます。

    そういったわけで、このシーンでは、
    「同じコトバ」が「異なる意味」で、「くりかえし」登場しています。ですので、「異義復言」となるわけです。
  • 例文を見るその2)
  • 短編「この恋はNONフィクション」『かんしゃく玉のゆううつ』91-92ページ所収(種村有菜/集英社 りぼんマスコットコミックス)
    • ユリ★ 「私… 小さい頃
    • 夢がふたつ ありましたわ
    • ひとつは イルカの飼育員に
    • なりたかったんです…」
    • 良「へぇ なんで?」
    • ユリ★「 初めて テレビで見たときに
    • 一目ぼれ したんですわ
    • あんまり私が
    • イルカに 夢中だったので
    • 父さまが 小さいイルカの
    • ぬいぐるみを
    • 買って下さったの
    • …でも それを見た
    • 良(もしかして 捨てた…
    • ポポイのポイっと。)
    • ユリ★「他の もっと大きなぬいぐるみを
    • いっぱい買って下さいましたわ[
    • そして 抱かれすぎて汚れた
    • イルカのは…
    • 捨てられてしまったのです」
    • 良(なんだ 結局
    • 捨てられたのか)
    • ユリ★「夢も一緒に
    • 捨てられた気がしました…
    • だから よけ
    • 執着して しまうのでしょうね」


    つぎの引用は、短編「この恋はNONフィクション」から(『かんしゃく玉のゆううつ』所収)。

    …ストーリーを書いていく、その前に。
    右上のセリフの部分に「ユリ★」って書きました。まず、この「★」のことから説明するとスッキリするでしょう。

    この「ユリ★」は、「果林」という女の子が「ユリ」に変装していますよ、という意味でつけました。つまり良から見ると、相手の女の子は「果林」ではなく「ユリ」だと思われているわけです。

    では、ナゼこんな身代わりをすることになったか。
    それは、「ユリ」が今までウソをついていたからです。

    もともと「良」と「ユリ」とは、文通相手だった。つまり、お互いに実際に会ったことがなかった。
    そして「ユリ」は、「果林」の写真を「ユリ」の写真です、とウソをついて送っていた。
    だから、文通相手の「良」にしてみると、「果林」のことを「ユリ」だと思い込んでいるわけです。

    しかしなぜ、「ユリ」は自分の写真を送らなかったのか。その理由は、
    あ~っ もう 太ってたのよ!
    デブだったのよ!!

    とのこと。恋する女の子は時として、こんなことを……するのでしょうか?
    普通はしないと思う。けれど、インターネットの広がっている現在。「ネカマ」こと「ネットオカマ」というのも大勢います。インターネット上では、男であるにも関わらず、女を装ってメールの交換をすることもできます。そして実際、そういうことをするアルバイトさえあります。

    とにかく、ウソの写真を送っていたせいで、「果林」に代役を頼むということになってしまいました。
    で、ここからが本題の「異義復言」になります。

    「ユリ」のすがたをした「果林」は、こんなふうに言っています。
    「他の もっと大きなぬいぐるみを
    いっぱい買って下さいましたわ
    そして 抱かれすぎて汚れた
    イルカのは…
    捨てられてしまったのです」
    (くう-)
    「夢も一緒に
    捨てられた気がしました…
    だから よけいに
    執着して しまうのでしょうね」

    さて。
    ここに出てくる2つの「捨てる」という言葉。同じ会話の中で出てきていますが、ちょっと意味が違うという気がします。

    なので、「広辞苑」の「捨てる」を引いてみる。すると、このように書いてあります(例文は省略)。
    • 不用の物として物を手もとから離す。[[lr]見はなす。かまいつけなくなる。

    • 大事なものを投げ出す。
    • -以下「4.」-「6.」は省略。ilo]]]
      最初のほうの《イルカのぬいぐるみを》「捨てる」は、「広辞苑」の「捨てる」の中では「1.」に当たります。つまり、「いらない」といってゴミ箱などに物を持っていく、ということになります。

      しかし、次に出てくる《夢を》「捨てる」のほうは、「広辞苑」の「捨てる」の中では「3.」に当てはまるでしょう。心の持っていた、イルカへの想いみたいなものを断ち切られてなくす、という意味で使われています。

      したがって、最初のほうの《イルカのぬいぐるみを》「捨てる」と、次に出てくる《夢を》「捨てる」とでは、意味が異なっているということができます。

      ですので、この引用した部分を「異義復言」とします。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「異義復言」に近いレトリックとの違いを考える

  • 深く知るa「異義復言」に近いレトリックとの違いを、カンタンにまとめる
  • 「異義復言」には、少し近いレトリックとして「トートロジー」や「洒落」「類音語反復」といったものがあります。
    そういったレトリックと区別して、「異義復言」をイメージしやすくするためには。国語辞典の項目を思いうかべるといいと思います。

    くり返されているコトバどうしの違いが、国語辞典の同じ項目の範囲におさまる程度のものであれば。それは、「異義復言」だといえます。ですが、国語辞典のとなりの項目に載っているようなものが反復されているようであれば、「洒落」「類音語反復」に含まれるものとなります。

    たとえば、このページで引用した例に出てくる「ひとり」を手近な国語辞典で引いてみます。すると、
    ひとり【一《人】[一]①(A)人の数が一(イチ)であることを表す。(B)(相手・配偶者が無く)自分だけで居る(する)こと。
    -『新明解国語辞典』(第五版)から一部抜粋

    西島がいう「ひとりちゃうやろ」のほうに出てくる、「ひとり」。これは、「(A)人の数が一(イチ)であることを表す。」で間違いありません。これにたいして、「ひとりやもん」と麗奈が言いかえしているときの「ひとり」。こちらは、「(B)(相手・配偶者が無く)自分だけで居る(する)こと。」に近いものです。

    このような、
    国語辞典で言えば、いっしょの項目の中にある意味の違い。それを利用するのが、「異義復言」です。

    ちなみに。
    国語辞典の「同じ項目コトバを、まったく同じ意味で」くり返すと。それは、「 トートロジー」になります。

    また。
    反対に「近くにあるため発音が同じになるコトバを、まるっきり違う意味で」くり返すと。それは「 しゃれ」「 類音反復・ジングル」になります。

    そのことを書き出してみると、つぎのように区別することができます。そのことを書き出してみると、つぎのような表になります。
    コトバそのもの:○同じ
    コトバの意味:○同じ
    コトバそのもの:○同じ
    コトバの意味:×異なる
    「異義復言」
    コトバそのもの:×異なる
    コトバの意味:×異なる

  • 深く知る2「異義復言」に近いレトリックとの違いを、厳密に考える

  • 深く知るaレトリックの分類を、細かな点まで検討してみる-その1
  • じつは、上で書いた説明。安定性を欠いているという面が、少しだけあります。

    それはなにかというと、
    国語辞典まかせで考えたら、引いた国語辞典によって結論が変わるのではないかと思われる点です。

    そのためレトリック学者たちは、もうすこし細かいところまで行きとどいた定義を与えようとします。

    まず、「国語辞典の同じ項目の中にあるかどうか」ではなくて、もっと厳密に考える。「語源が同じ単語かどうか」で、「同じコトバ」といえるかどうかを判断する。これにしたがうと、同じ語源にあることばをくり返した場合には「異義復言」か「 トートロジー」のどちらかに含まれることになります。

    たしかに、
    語源というものは、ことばを使うヒトがそのコトバを同じものと思うかどうか考える時に、大事な基準になっています。ですが、そんなコトバでも語源だけを考えればいいとは思えません。

    たとえば、
    「掻く」「書く」「描く」は、語源が同じです。けれども、この3つの動詞が「同じコトバだ」と考えるのには無理があります。

    そういったわけで、
    かならずしも語源は、決め手にならないようです。

  • 深く知るb細かな点まで検討してみる-その2
  • もう1つの考えかたとしては、「翻訳してみる」というものがあります。どんな外国語に翻訳したとしても同じ単語になるとするなら、それは「同じコトバ」と考えようというわけです。

    しゃれ」で音が同じになっているのは、たまたまです。だから、それを翻訳したら同じ発音のコトバにはなりません。しかし、「異義復言」(または「 トートロジー」)であれば翻訳しても同じコトバになるはずです。

    このページの最初にあげた「ひとり」を、またもや例にしてみます。これを英語に訳すと
    “You are not alone.”

    “Yes,but...
     I am alone.”

    と、いずれも“alone”に訳すことができます。

    ただし、
    翻訳ができるかどうかで、必ずしも判断できるとは限りません。たとえばフランス語で、
    Le cur a ses raisons que la raison ne connait point.

    というパスカルの名言があります。見てのとおりraison(英語でいうreason)が続けて登場しています。この名言は、ふつう「異義復言」だと理解されています。

    ですが、
    これを日本語に翻訳するにあたって、「異義復言」らしく訳すのは不可能です。

    この文の意味は、だいたい「心は理性が知らない理由を持っている」というものです。そのため、最初の“raison”は「理性」といったことをあらわしていているといえます。ですが、つぎの“raison”は「理由」「理屈」「道理」あたりのことを意味しているということになるのです。


  • 深く知るc結果として、ややあいまいさが残るレトリックになる
  • こういった事情があるので、「異義復言」にはあいまいさが残ってしまいます。

    どういうことかというと、
    一方で「異義覆言」は「トートロジー」寄りのレトリックだと考えるひとがいる。しかし他方で「洒落」や「地口」に近いものだと思うひとがいる。そういった、あいまいさのあるレトリックなのです。

  • 深く知る3あいまいさを避けるために、さらに細かいレトリック用語をつくる
  • ここで。
    「異義復言」が持っているあいまいさを、どうにか解決しようとして。レトリック学者は、さらにレトリック用語を生みだしていきました。

    具体的には、「トートロジー」と「異義復言」との、中間のはたらきをするレトリック。そういったものとして、「拡縮反復(ploce、rversion)」というレトリックを、つくりだしました。

    また、「異義復言」からの距離が「しゃれ」よりもさらに遠くにあるもの。ここについては、「駄洒落(calembour)」というレトリックが占めることがあります。

    このことを表にまとめると、つぎのようになります。
    • ↑同じコトバの反復↑
    • トートロジー」(tautology)
    • 「拡縮反復」(ploce、rversion)
    • 「異義復言」(antanaclasis)
    • しゃれ」「 類音反復・ジングル」」(pun)
    • 「駄洒落」(calembour)
    • ↓違うコトバ(音だけ同じコトバ)の反復↓

    ただもうしわけありませんが、いまのところ「拡縮反復」「駄洒落」のページはありません。時間があれば、そのうち作っていきたいとおもいます。

  • 深く知る4音が近いかどうかによる、ほかのレトリックとの区別
  • 音の同じ(もくしは似た)ことばをくり返すレトリックについては、次のようにまとめることができます。
    単語のカタチ:○同じ
    単語の意味:○同じ
    単語のカタチ:○同じ
    単語の意味:×異なる
    「異義復言」
    単語のカタチ:×異なる
    単語の意味:○同じ
    単語のカタチ:×異なる
    単語の意味:×異なる
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 異義復言(法)
  • 呼び方4
  • 換義・異義反復
  • 呼び方3
  • 同語異義復言(法)・別義同語反復・アンタナクラシス
  • 呼び方2
  • 異義復用法
  • 呼び方1
  • 同語異義反復法・同語異義法・同語別義反復・同音異義語の地口
このレトリック呼びかたについては、かなりバラツキがあります。「異義復言」だけでなく「換義」「異義反復」といったあたりも、よく使われている呼びかたです。
  • 参考資料
  • ●『シェイクスピアのレトリック』(梅田倍男/英宝社)
  • シェイクスピアが使っているレトリックは、どちらかというと「地口」に近いものです。そのため、この本で触れられている例文も「地口」に近い「異義復言」が多いと感じます。なお、同じ著者の『シェイクスピアのことば遊び』(梅田倍男/英宝社) もあわせて参考になると思います。
  • ●『わざとらしさのレトリック-言述のすがた-(講談社学術文庫 1150)』(佐藤信夫/講談社)
  • このページをつくるにあたっては、それほど参考にしませんでした。ですが、とくに夏目漱石の使う「異義復言」について深く書かれています。
  • 余談

  • 余談1『ラブ★コン』に登場する「異義復言」
  • 『ラブ★コン』1巻57ページ(中原アヤ/集英社 マーガレットコミックス)
    • リサ「ラスボス倒すことで 頭
    • いっぱいなってもーてな…」
    • 大谷「ゲームで出してる
    • ヒマあったら
    • 女としてのを磨け!」
    • リサ「はあ…」


    -『ラブ★コン』1巻57ページ(中原アヤ/集英社 マーガレットコミックス)
  • 『ラブ★コン』(中原アヤ/集英社)というコミックがあります。大阪にある高校を舞台にしたストーリーなので、大阪っぽい「かけ合い」をたくさん見ることができます。

    そんな「かけ合い」にも「異義復言」は、なくてはならないものです。

    なので、いくつか例と書いておくことにします。

    まず、「トートロジー」に近い「異義復言」の例。主人公のリサは、学校の授業で居ねむりしていた。が、そんなとき大声で寝ごとを言ってしまう。
    「召喚獣も全滅や!!」

    と。授業中に居眠りしていたのは、昨晩おそくまでテレビゲームをしていたから。そういったわけで、寝言にまで「召喚獣」がでてきたというわけ。

    つぎの例は、かなりそんなリサに、大谷が告げる。
    大谷「ゲームで出してる
    ヒマあったら
    女としてのを磨け!

    ここに出てくる、2つの「」というコトバ。これは、どちらかというと「 漸降法」に近い「異義復言」の使いかたがされていると感じます。

  • 余談2『ラブ★コン』に登場する「異義復言」その2
  • 『ラブ★コン』3巻9ページ(中原アヤ/集英社 マーガレットコミックス)
    • リサ「あかん!! ちゃうねん!!
    • なんか ちゃうねん!!」
    • のぶちゃん「 出た「なんかちゃう
    • そーやって
    • 文句ばかり言ってるから
    • いつまでたっても
    • いつまでたっても
    • なんか ちゃう
    • ちょっと ちゃう あれ
    • チャウチャウ ちゃう
    • ちゃうちゃう
    • チャウチャウちゃう
    • リサ「 うるさいなー!
    • どーせ また理想高いとか
    • 言うんやろ!」


    -『ラブ★コン』3巻9ページ(中原アヤ/集英社 マーガレットコミックス)
  • つぎのものは、かなり「しゃれ」か「駄洒落」に近いもの。

    リサの前に、幼なじみの遥という少年が転校してきた。遥は、かなりのあいだ逢わないうちに美少年に成長していた。

    だけれどもリサには、それほど遥のことが魅力的にはうつらない。子ども時代に遥はいじめられっ子だったので、どうしてもリサにはそのイメージが焼きついているのだという。

    だからリサは、
    「あかん!! ちゃうねん!!
    なんか ちゃうねん!!」

    と言う。これにたいする、のぶちゃんの答えを見てみると。
    「なんか ちゃう
    ちょっと ちゃう あれ
    チャウチャウ ちゃう
    ちゃうちゃう
    チャウチャウちゃう

    といったふうに、やたら「ちゃう」が登場する。しかも、いきなり話題に、イヌの「チャウチャウ」が出てくる。

    そういったわけなので、こちらは「しゃれ」か「駄洒落」に近いものだといえると思います。