疑惑法:表現を選ぶのに迷う
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疑惑法 ぎわくぽう aporia

『絶対彼氏。』2巻124-135ページ(渡瀬悠宇/小学館 少コミフラワーコミックス)
  • リイコ「 なにソレ-?
  • あ なんだ
  • もしかしてソウシ
  • 好きなコいるんだ!?<中略>どんなコ?」
  • ソウシ 「すっごい ニブい
  • 人がそばで 見てんのに
  • しょっちゅう ほかの男にホレてんだ
  • そいつ 不器用だし
  • すっとぼけてるし
  • …明るい てーか
  • 元気が取り柄てーか
  • 意地っぱりだし 寂しがりだし
  • …ホント目が離せなくて…
  • リイコ(「あ… あれ?)
  • な…なんか それって-
  • あたしに 似てるね-
  • なーんて」-『絶対彼氏。』2巻124-135ページ(渡瀬悠宇/小学館 少コミフラワーコミックス)
  • 定義重要度2
  • 疑惑法は、表現を選ぶのに迷う、というレトリックです。つまり、いろいろな表現をしてみるけれど、どれもが不十分だと思わずにはいられず、言いなおしながら多様な表現を並べるものです。

  • 効果

  • 効果1話し手が言葉を決めることができないでいる様子を表す

  • 自分は、どのように行動すればいいのか。もしくは、今の状況をどのように受けとめればいいのか。そういったこと考えて、「ためらったり」とか「迷ったり」していることを表現することができます。
  • キーワード:ためらう、躊躇する、たじろぐ、しり込みする、ひるむ、迷う、惑う、戸惑う、気迷い、逡巡、二の足を踏む、遅疑、右顧左眄、日和見

  • 効果2行きづまってしまい、困っている状況を示す

  • どうすることもできなくなって、何もできなくなっている。そういった、困り果てたようすを示すこともできます。
  • キーワード:困惑、困る、困り果てる、手づまり、行きづまる、当惑、弱る、悩む、苦悩する

  • 効果3今の状態に「疑い」を感じていることをあらわす

  • こちらは。自分が置かれている今の状況に、なにか不自然なものを感じとっている。そういった、現状にたいする「疑い」をあらわしています。
  • キーワード:懐疑、怪しむ、うたがう、疑惑、いぶかしがる

  • 効果4もともと慎重だったり優柔不断だったり、ということもある

  • ふつうであれば、それほどの「疑い」を感じないはずなのに。なにかの理由で、いつも以上に用心深くなっていることを表現できます。また、この「疑惑法」を使っているヒトが、もともと慎重なヒトだったり、ことによると優柔不断だったりするばいもあります。
  • キーワード:優柔不断、気弱、慎重、用心深い
  • 使い方
  • 使い方1断定することを避ける

  • 自分の考えたことを断定しないことによって、「疑惑法」を使うことができます。パターンとしては、文の最後に「ぼかす」ことばをつけるのが、いちばん典型的です。たとえば、「…だろうか」とか「…かもしれない」とかいったかたちで文を終わらせると、迷っていることをカンタンに表現できます。
  • 使い方22つの考えかたを示す

  • これは、「…というよりも」「あるいは…」などの言葉を使うものです。いままで、なにか考えかたを示してきた。それなのにもかかわらず、その考えかたとは別の考えかた出してくる。このことによって結局、同じ状況にたいして2つの考えかたが並び立つことになります。これも「ためらい」を持たせる、ひとつの手段です。
  • 使い方3話のはじめから迷っている

  • これは、話のスタートの時点から、すでに迷っているというものです。たとえば、「どこから話し出したらいいか…」だとか「何を話したらいいか…」とかいったものです。
  • 注意

  • 注意1哲学用語としての「アポリア」とは違う

  • 「疑惑法」の英語名としてつけた「aporia(アポリア)」という用語。これについては、ちょっと書いておかなければならないことがあります。

    たとえば『広辞苑』(岩波書店)を見ると、「アポリア」について、このように説明しています。
    [哲]アリストテレスの哲学では、ある問題について論理的に同じように成り立つ対立した見解に当面すること。
    一般に、解決できない難問。

    しかしながら。
    今、このページで紹介してしている「aporia(アポリア)」という英語名をつけた「疑惑法」というレトリック用語は、この2つのいずれにも当てはまらないものです。このページで紹介しているのは、あくまでもレトリック用語としての「aporia(アポリア)」です。アリストテレス以来の、哲学用語としての「aporia(アポリア)」とは異なるものです。

    以上のことを、ご理解しておいてください。
  • 例文を見る)
  • で、引用は『絶対彼氏。』2巻から。

    主人公は、女子高生の「リイコ」。

    彼女は、怪しいセールスマンに出会う。そして、「欲しいものは?」と聞かれたときに、「彼氏!」と答える。
    すると、等身大で人間そっくり、しかも美少年の「フィギュア」が送られてきた。

    が。
    その価格、なんと「一億円」。

    「一億円」なんて、女子高生には無理。でも支払いは分割ということになって、「リイコ」はバイトを探すことになる。そして、「リイコ」が選んだバイト先で、「ソウシ」という男子高校生に出会う。

    そこで「リイコ」は、だんだんと「ソウシ」のことを好きになっていく。そして、同じように「ソウシ」は「リイコ」のことが気になっていく。[[vr]]だけれども、
    「ソウシ」は「リイコ」のことが好きだけれども、想いをうちあけることができないでいる

    という状態。

    そこで「ソウシ」は、そんな「リイコ」から
    「好きなコは、どんなコ?」

    って質問された。そんなわけだから、とまどう。困ってしまう。
    そして悩んだすえに口から出した言葉が、引用したシーンで「ソウシ」が話している部分。
    • ソウシ「すっごい ニブい
    • 人がそばで 見てんのに
    • しょっちゅう ほかの男にホレてんだ
    • そいつ 不器用だし
    • すっとぼけてるし
    • …明るい てーか
    • 元気が取り柄てーか
    • 意地っぱりだし 寂しがりだし
    • …ホント目が離せなくて…

    いや。なんかつらいね。
    目の前にいる女の子が好きなのに、その子は「すっごいニブい」。だから、いくら自分が想っていても、自分の気持ちには相手には伝わらない。
    だからといって、ストレートに「好きです」と言うほどの勇気はない。結果として、しどろもどろの悩めるセリフになってしまったわけです。

    そういえば。
    渡瀬先生のコミックは、このサイトのいたるところで使わせております。この「疑惑法」のページのように長く引用してしまっているものもありますが、先生におかれましては、どうかご容赦下さいますよう。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「疑惑法」と「反復法」などとの関係
  • このサイトでは。
    いちおう「疑惑法」については、「 反復」の1つとしておきました。

    たしかに「疑惑法」は、「同じような意味」のことばが連続しているというものではありません。また、「同じような発音」のことばが並んでいるというものでもありません。

    ですが。ようするに「疑惑法」は、「あーでもない、こーでもない」というものです。つまり、「なにか」ことばが連なっていることは、たしかです。

    そういったわけで。その他の「 反復」については、そちらを参照して下さい。

  • 深く知る2「疑惑法」と「中断法」「頓絶法」との関係
  • 「疑惑法」では、ことばを並べることになる。それにたいして「 頓絶法」や「 中断法」では、「……」と黙ってしまう。

    たしかに見た目には、「疑惑法」と「 頓絶法」や「 中断法」」は、まったく反対のものに思われます。ですが、表面上では逆なのにも関わらず、その中身は近い関係にあります。

    なぜならどれも、「言葉に迷っている」という点で共通しているからです。つまり、伝えたいことを、うまく言葉することができない時の「苦しまぎれ」である点が共通しているのですが。

  • 深く知る3「疑惑法」と「類義累積」との関係
  • それと。
    「疑惑法」は「 類義累積(類義語累積法)」と近い関係にあり、時には重なることもあります。なぜなら、「疑惑法」と「 類義累積(類義語累積法)」とは両方とも、「似たような言葉を並べる」という点では同じものだからです。

    ただ、「疑惑法」に「言葉に迷って」という理由で使われる。これに対して、「 類義累積(類義語累積法)」に「似た言葉をならべることで印象を強くする」という理由で使われる。そこに違いがあります。

    別の言いかたをすれば。
    「疑惑法」は、「1つのものを違った角度で見た」ものです。そのため、「意味の違たことば」が並びます。
    類義累積(類義語累積法)」は、「1つのものを同じ角度から見た」ものです。そのため、「意味の似たことば」が並びます。

    ですが、「疑惑法」と「 類義累積(類義語累積法)」とが近い関係にあるのは確かです。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 疑惑法
  • 呼び方4
  • ためらい・アポリア
  • 呼び方1
  • 遅疑逡巡
  • 参考資料
  • ●『レトリック連環(成蹊大学人文叢書2)』(成蹊大学文学部学会[編]/風間書房)
  • 「疑惑法」について書いてあるのは、[問題群としてのレトリック(森雄一)]という項目です。このサイトでは、「疑惑法」と「黙説法」とが似ている、といったようなことを書きましたが。そういったあたりの「ネタ本」は、これです。なお、この本では「ためらい」と「黙説」というレトリック用語を使っています。けれどもそれは、このサイトでの「疑惑法」と「頓絶法」というものと同じです。
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