隠語:仲間うちだけので通用する言葉を使う
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隠語 いんご argot

『佐々木と宮野』1巻13ページ(春園ショウ/角川書店 MFCジーンピクシブ)
  • 佐々木先輩「朝 薄い本だの
  • 言ってたじゃん
  • あれってなにかなって思って
  • 友達に聞いたんだけど
  • 知らなくてさ」
  • 宮野「いや気にしないで
  • ください
  • あと友達に聞かないでください」
  • 佐々木先輩「あとよく言ってる
  • 受け? とか攻め? とか
  • あと萌え? だっけ」
  • 宮野(あああああああああ
  • 非ヲタの純粋な
  • 興味本位の質問
  • 恥ずかしすぎる!)
-『佐々木と宮野』1巻13ページ(春園ショウ/角川書店 MFCジーンピクシブ)
  • 定義重要度2
  • 隠語は、仲間うちだけので通用する言葉を使うレトリックです。言いかえれば、ある特定の集団に属している人にだけには通じるけれども、部外者には通じない言葉のことです。「雪」で「粉末コカイン」をあらわしたりするのが、この「隠語」にあたります。「言ったりする場合が、この「隠語」にあたります(これは『レトリック小辞典』(同学社)が挙げている例ですが、犯罪のにおいがする例文だなあ)。

  • 効果

  • 効果1その言葉づかいをしている人が、特殊な集団に属していることを示す

  • その言葉づかいをしている人が、特殊な集団に属していることを示します。そのため、同じ仲間どうしのつながりがあるということを確かめる、という効果があります。
  • キーワード:特殊、特別、仲間、仲間うち、同類、連帯、共鳴、結束、所属

  • 効果2身の危険が及ぶような集団のばあい、恐れをなす

  • 特殊な集団というのが反社会的なもので、身に危険がおよぶタイプのばあい。一般の人は、恐れをなすことになります。
  • キーワード:反社会的、危険、恐れをなす、害をおよぼす

  • 効果3反社会的な集団が持っている情報を、一般の人に知られないようにする

  • 逆に、反社会的な集団からみると。反社会的な集団が持っている情報を、一般の人に知られないようにするという効果もあります。秘密を守る必要がある、ということです。
  • キーワード:秘密、秘密保持、隠す、守秘、秘匿、合いことば、隠微、閉鎖社会

  • 効果4反社会的でなくても、秘密保持が必要なときに行う

  • 多くのばあい、「隠語」は反社会的な集団が用います。ですが医者のように、たんに患者に知られたくないと理由で使うときにもあります
  • キーワード:知られたくない
  • 使い方
  • 使い方1「さかさ言葉」(後ろから前に読む)使う

  • 言葉を、後ろから前に向かって発音すると元の意味が分かる。これを「さかさことば」といいます。(例:「ドヤ」は「宿」のことを指している)
  • 使い方2「省略」(ことばの一部を省く)を使う

  • 語頭音消失」や「 語尾音消失」などを使って、ことばの一部を省略するもの。(例:「サツ」は「警察」のこと)
  • 使い方3「外国語」を使う

  • 外国語を使って「隠語」を作るもの。これは、あまりメジャーな言語や単語は不向きです。
  • 使い方4「字喩」を使う

  • 漢字の形をもとにした、謎解き。これを「 字喩」といいます。これを使って作る「隠語」もあります。(「ロハ」は「只」のこと)
  • 使い方5「提喩」や「失形象法」を使う

  • 提喩」や「失形象法」。このうち「 提喩」」は、その物の部分で全体を、あるいは全体で一部を示すものです。また「失形象法」は、それが極端になったものです。こういったぽものを使うこともできます。(「話がピーマン」は「話の中身がからっぽ」のこと)
  • 注意

  • 注意1一般に人に悪いイメージをもたせる

  • 「隠語」は多くのばあい、一般の人に悪いイメージをもたせることになります。ですので、時と場合によっては、ひかえることが必要となります。ただ「隠語」によって悪いイメージを持ってもらうことが求められる、とったこともあります。そのばあいには、逆に使ったほうが効果的だということもありえます。

  • 注意2一般の人には、注釈などの説明が必要

  • 小説を書くばあいなど、「隠語」を使うとき。そのときには読み手の理解を妨げないように、注釈などが必要です。「隠語」がもっているイメージをくずさない程度に、それとなく読者に伝えることが重要です。
  • 例文を見る)
  • 引用は『佐々木と宮野』1巻から。

    主人公は、宮野。そして話している相手が、佐々木先輩。

    ヲタ初心者の佐々木先輩は、ヲタ系の隠語の意味が分からない。「薄い本」「受け」「攻め」「萌え」。

    まあ「萌え」はともかく他の3つは、あまり公言することをはばかられるような内容なので、ヲタでない人は知らないのも当然です。

    そしてそのように、特定の集団(この場合ヲタの人たち)でしか通用しない言葉が、「隠語」となるわけです。

    んー、ここでこの「隠語」の意味を解説すべきなのでしょうか。私(サイト作成者)が。

    「薄い本」とは同人誌のことで、特にBL系同人誌のことを意味します。

    「攻め」とは、その同人誌の中で主導権や能動性をもって行動するキャラクター。

    対して「受け」とは、それを受け入れる側のキャラクターとなります。

    これ以上、直接的に説明をするのは差し控えておきます。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「隠語」の3分類
  • 「隠語」は、次の3つに分けることができます。
    1. 一般的な「隠語(argot)」タイプ
      仲間以外の人には、何をいっているのかわからないようにするために作られたことば(暴力団などの犯罪組織といった犯罪的なことばが多い)

    2. 「専門語・通言(jargon)」タイプ
      仕事や職業などで使われるもので、その仕事と関係のない人には、何のことかわからないことば(医者などのように、その仕事に特有のものなどに対することばに多い)

    3. 「俗語・スラング(slang)」タイプ
      若者が使って楽しんでいるもので、若者以外には通じにくいことば(若者が、仲間であることをお互いに認め合うために使うことばが多い)

    これが、その3つです

    この3つの分類については、『生まれることば死ぬことば』(湯浅茂雄/アリス館)を参考にしました。

    例文で出てきた「兄貴から使ってください」はどれに当たるかというと。上にあげた「A.?C.」の中では、「A.」もしくは「B.」にあたります。

    例文のものは「仲間うちだけで通用するようなことば」ですが、その仲間というのが、「仕事や職業などで使われている」ものです。ですので、「A.」と「B.」が両方ともあてまはるものといえます。

  • 深く知る2「隠語」と「忌詞」との関係
  • 歴史的に見ると。この「隠語」は、もともとは「忌詞」から出てきたものといえます。つまり、宗教的ないしは呪術的な観点に立って、それが尊いものだったり、逆に汚らわしいものであったりした場合に、それを直接に言うのを避けた。それが「忌詞」です。

    ですが。
    時代とともに、「隠語」は「忌詞」ばかりを指すものではなくなります。例えば盗賊仲間の中だけで通じるような言葉が出てきます。これが「隠語」にあたります。

  • 深く知る3「隠語」と「社会方言」との関係
  • この「隠語」は、一部の社会に属している人にだけ通用するという意味で、「方言」のひとつだということもできます(方言学の用語で言えば、「社会方言」ということになります)。

    くわしくは、「 方言」のページをご参照ください。

  • 深く知る4「隠語」を作ること
  • 「隠語」の作り方は、「 新造語法」と強く関連します。また、「隠語」と「 新造語法」には重なるものもあります。

    というのは、「 新造語法」で作られる「新語」は、もともと「隠語」として一部の人だけが使っていた言葉だった。けれども、その言葉の意味を次第にみんなが知るようになり、「新語」になる。そういう流れになることが多いからです。

    たとえば「インチキ」というのは、もともと賭博仲間だけの「隠語」でした。ですが、昭和初期に一般に広まり「新語」となり、現在は辞書にも載っている正式な日本語になりました。

    また、ふつうは「 語頭音消失」よりも「 語尾音消失」のほうが圧倒的に数が多いです。つまり、1つのことばを縮めて短くするばあいには、ふつう「始めの音を残して、最後の音を削りとる」ことになります。

    しかし、「省略」によって「隠語」をつくる場合には、「 語尾音消失」よりも「 語頭音消失」のほうが多いようです。つまり、「始めの音を削りとって、最後の音を残す」ものがたくさんあります。

    これは「 語頭音消失」のほうが、一般の人に分かりにくいことばを作ることができるためです。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 隠語
  • 呼び方2
  • 符牒・符丁
  • 参考資料
  • ●『センスある日本語表現のために-語感とは何か-(中公新書 1199)』(中村明/中央公論社)
  • この本が新書だということを考えれば、非常にくわしい解説がされているといえます。
  • ●『新語はこうして作られる〈もっと知りたい!日本語〉』(窪薗晴夫/岩波書店)
  • たくさんの例があがっているので、読むだけでも参考になるのではないかと思います。個人的には、「キザ」が「気障り」の省略だと初めて知りました。
  • ●『生まれることば死ぬことば』(湯浅茂雄/アリス館)
  • かなりの量を使って、「隠語」を解説しています。文末が「-です」「-ます」となっているので、そこは意見の分かれるところです。私(サイト作成者)は、このサイトを「ですます体」で書いていることからも分かるように、「ですます体」に賛成です。