この「添義法」。コミックの世界では、わりとよく見かけるレトリックです。
たとえば、無作為に本箱から手に取ったマンガ本が『D・N・ANGEL』(杉崎ゆきる)の1巻だとします(単に、偶然そうだっただけです)。この本から異例なフリガナをふっている例を、ぼちぼち取りだしてみましょう。
このコミックを一言で解説しておけば、14歳の誕生日、丹羽大介の体に異変が起きた。好きな女の子のことを強く意識すると「怪盗」ダークに変身してしまう。ついでに、ダークが好きな女の子のことを強く意識すると、丹羽大助に戻ってしまう。
というコミックです。では、「ヘンなフリガナ」探索スタート。
- 「恋愛」に「トラブル」とフリガナがふってある(5ページ)。恋愛で変身するなんて、トラブルにまちがいない。
- 「幸運」に「ラッキー」とフリガナがある(13ページ)のは、まあ、それほど意外性はないけどいちおう。
- 「DNA」に「オレ」とフリガナがふってある(27ページ)は、この作品ならではのフリガナ。DANに刻み込まれているから、怪盗ダークに変身するんですね。
- 「聖なる乙女像」に「セイントティアーズ」とフリガナ(28ページ)。
- 「14歳になったら」に「成人したら」とフリガナがある(32ページ)のは、もはや、フリガナに漢字を使うという荒技がみられる。
- 「非現実」に「レベルアップ」とフリガナがある(63ページ)。こんなの言語明瞭・意味不明瞭。
- 「怪盗」に「ダーク」のフリガナ(75ページ)は、まあ、設定そのままではある。
- 「もう一人」に「ダーク」のフリガナ(77ページ)は、「ダーク」のことを「もう一人の自分」だと思っている丹羽大介の感情が出ています。
- 「学校」に「こんなとこ」のフリガナ(84ページ)は、そりゃまあ、学校=こんなとこでダークには変身したら困るわな。
- 「上司」に「ガキ」のフリガナ(92ページ)は、作品の設定上、そうなっています(「中断法」の項目でその一端を引用しているけど、詳しくは本を読んでくれ)。
- 「ダーク」に「オレ」のフリガナ(94ページ)は、「怪盗ダーク」である姿のほうの自分、っていう意味。
- 「非現実」に「コンナン」のフリガナ(96ページ)は、ふつうの部類。
- 「真実」に「ホンモノ」のフリガナ(97ページ)も、わりとふつう。
- 「堕天使」に「ふたつめ」のフリガナ(98ページ)なんかもあります。お手上げです。
- 「大助」に「もと(にもどっちまう)」のフリガナ(132ページ)は、作品の設定上、そのとおりでございます。
以上、『D・N・ANGEL』1巻のうち、同作品部分の「ヘンなフリガナ」を探索しました。
やっぱり、沢山ありますね。マンガが「総ルビ」を基本としているからでしょうか?
でも、よく考えてみると、杉崎ゆきる先生は「添義法」を多く使う漫画家さんのようです。
『卒業M』(杉崎ゆきる・有栖川ケイ/角川書店 あすかコミックス)のサブタイトル。1巻は『?僕たちの方程式?』となっているのですが、その「方程式」には「こたえ」とフリガナがついています。並べて書いていくと、
- 1巻。『卒業M-僕たちの方程式-』の「方程式」には「こたえ」のフリガナ。
- 2巻。『卒業M-僕たちの放課後-』の「放課後」には「じかん」のフリガナ。
- 3巻。『卒業M-僕たちの鼓動-』の「鼓動」には「リズム」のフリガナ。
- 4巻。『卒業M-僕たちの未知数-』の「未知数」には「ひみつ」のフリガナ。
- 5巻。『卒業M-僕たちの友情-』の「友情」には「きずな」のフリガナ。
タイトルから、こういった「添義法」を使っているのだから、本の中は「推して知るべし」といえます。なお、杉崎ゆきる先生が描いていない、続編の「卒業M+(Plus)」(西臣匡子・有栖川ケイ)では、こういったフリガナは付いていません。やはり、杉崎ゆきる先生が描いているためにフリガナがふってある、と見ていいでしょう。