列挙法:色々な方面の言葉を積み重ね強調する
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点描法 てんびょうほう --

短編「インド親子茶碗」『インド夫婦茶碗』1巻64ページ所収(流水りんこ/ぶんか社 BUNKASHA COMICS)
でかい目
くっきりふた重
ファサファサの
まつ毛

でかい耳
つき出た唇
形の良い鼻

これはきっと
誰が見ても
かわいいに
ちがいない…
だって私に
似てないし…
-短編「インド親子茶碗」『インド夫婦茶碗』1巻64ページ所収(流水りんこ/ぶんか社 BUNKASHA COMICS)
  • 定義重要度1
  • 点描法は、名詞止めの形で、あるものの特徴を並べるレトリックです。取りあげる対象のそれぞれのポイントを、それぞれ連体修飾を受ける名詞の形にしてまとめ、それらの名詞を平板に並べるものです。

  • 効果

  • 効果1全体としてまとまりをつける

  • ただバラバラになった要素を、そのまま見ていたばあい。受け手(読み手・聞き手)としては全体で何を言いたかったのかが、分からなくなってしまいます。そこで、バラバラになった要素をまとめることによって、全体としてのイメージをつかめるようになります。
  • キーワード:まとまる、ととのう、ととのえる、そろう、そろえる、取りまとめる、くるめる、ひっくるめる、くくる、しめくくる、一括、集約
  • 使い方
  • 使い方1対象を組み立てている要素を、バラバラにして描きだす

  • 描こうとしている対象を成り立たせている、いくつもの要素。その要素を、順番通りではなくバラバラに描いていく。このことで、絵を点描によって描くのと同じような効果が期待できます。
  • 使い方2名詞止めになることが多い

  • おおくのばあい点描法は、その文末が名詞になります。今回引用した例文も、すべて名詞で終わっています。
  • 例文を見る)
  • 例文は、短編「インド親子茶碗」より(『インド夫婦茶碗』1巻所収)。

    漫画家の「流水りんこ」が主役。

    彼女は、たびたびインドに旅行していた。そして、インド人の男性「サッシー」と結婚することになった。
    そして、出産。元気な男の子が産まれた。名前は「アシタ」。

    その「アシタ」を観察しての感想が、引用のシーンです。
    でかい目
    くっきりふた重
    ファサファサの
    まつ毛

    でかい耳
    つき出た唇
    形の良い鼻

    という感じで、名詞止めの形で並べられています。「アシタ」の特徴をならべて、「かわいい」と結論を出しています。この「アシタ」のことを表現していることばの中に、どのくらい「親バカ」っぷりが入っているのかは分かりませんが。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「点描法」についての細かいこと
  • この例文は、観察している「りんこ」が、思いついた順にならんで書いてあります。本当は、このように順番通りに書かれるものよりも、それぞれの点がバラバラと置かれているほうが、厳密な意味での「点描法」に近いものです(『日本語レトリックの体系』(中村明/岩波書店)を参照)。

    けれどもとりあえず、この例文を挙げておきます。

    ですが、私の意見を書かせてもらえば、次のことが言えます。

    それは、いくつかの物事が目の前にある場合、その物事に順番をつけないということはほとんど無いということです。例えば『日本語レトリックの体系』が点描法の例文としている、
    ふたえ瞼、長い睫毛、ちょっととがらせた唇、細い首と撫で肩、きゃしゃでフランス人形のような外見の少年だ。(栗本薫『ぼくらの時代』)

    というものもを見るとわかります。つまり、よく読むと「目→睫毛→唇→首→肩」と、人間が注目すると思われるものから順番に並べられているのです。そのことは、
    撫で肩、ちょっととがらせた唇、ふたえ瞼、細い首と長い睫毛

    と順番を無視して並べた場合に、かなりの違和感があることからもわかります。

    ですから、一番最初に書いた「点描法」の定義でも、『日本語レトリックの体系』が定義の中には書いてある、「非連続」で「一つの流れとして描かない」もの、という部分を、あえて定義からはずしました。

  • 深く知る2追記します(その1:絵を描いてみる)
  • >何でもいいので、絵を描こうとする。
    筆記用具と、紙を準備する。
    描こうとするモノを用意する。
    デッサンを始める。

    この時点で「非連続」で「一つの流れとして描かない」のは無理。

    どんな画家でもデッサンぐらいはするから。

    そして、仮にもし栗本薫が映そうとする「少年」をデッサンする。
    「撫で肩」からスタートすることは、想像できない。

    まあ、ここに書いたからって意味の無いことなんだけども。

  • 深く知る3追記します(その2:『小林英夫著作集』を読んでみる)
  • 小林英夫先生と波多野先生の論を。
    一触々々筆を画布にとどめて、運動を中絶させる。読者の眼はいやでも筆の停止するところに立ちどまらざるをえない。波多野氏の筆法でいけば、ことばよりも物への関心が高められる。

    と書かれています。

    点描画を完成させるプロセスは、話題になっていません。点描画の完成までのプロセスについての論になっていないのだから、名詞止めによるイメージの集合とりあげられるという展開には結び付かないのです。

    まあ、ここに書いたからって意味の無いことなんだけども。

  • 深く知る4「点描法」と「列挙法」との関係
  • この「点描法」という項目をあえて作らず、「 列挙法」のカテゴリーにまとめる考えかたもあります。

    たしかに文章から受ける印象は、あまり「 列挙法」と「点描法」とのあいだに違いがないですけれども。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 点描法
  • 参考資料
  • ●『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
  • 「点描法」の説明が丁寧に書かれています。多くの例文をあげて解説しているのもポイントです。
  • ●『小林英夫著作集8 文体論的作家作品論』(小林英夫/みすず書房)
  • [「夜明け前」の文体]という章に出ています。おそらく「点描法」というネーミングは、ここから広がっていったのだと思われます。corpus