代換:ことばの位置を交換して常識をくつがえす
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代換 だいかん hypallage

『天使な小生意気』1巻表紙(西森博之/小学館 少年サンデーコミックス)
『天使な小生意気』

西森博之-『天使な小生意気』1巻表紙(西森博之/小学館 少年サンデーコミックス)
  • 定義重要度2
  • 代換は、文のなかにある2つのことばの位置を入れかえるレトリックです。つまり、2つの語または語句が置かれる位置を交換するものです。

  • 効果

  • 効果1常識をくつがえす

  • 「代換」は、「文のなかで、2つのことばの位置を交換する」ものです。ここから、「代換」を使うことによって常識をくつがえす」、という効果があります。
  • キーワード:型破りな、奇抜、目新しい、突飛、奇想天外、奇異、奇特、コペルニクス的、コロンブスの卵、既成概念にはとらわれない、因習にとらわれない

  • 効果2おもしろい、滑稽な文を作る

  • 「代換」を使うことで、興味をひくような目新しい表現を作り出すことができます。
  • キーワード:おもしろい、面白味、興味津々、おかしい、愉快、楽しい、愉快、軽快、好ましい、滑稽

  • 効果3移動したことばが、強調される

  • 「代換」では、不自然な場所に不自然なことばが置かれることになります。ですので、よりインパクトのある表現を生みだすことができます。
  • キーワード:強調、強い、強まる、強める、強化、増強
  • 使い方
  • 使い方12つのことばを交換する

  • 「代換」では、文法のルールどおりであれば2つのことばが占めているはずのそれぞれの場所を、お互いに逆にすることになります。
  • 注意

  • 注意1文そのものの意味が、分からなくなってしまう

  • 「代換」を使う上で気をつけなければいけないこと——その1。それは「代換」をつかうことによって、文の読み取りができなくなってしまう可能性があるということです。

  • 注意2文の誤りと受け取られかねない

  • 「代換」を使う上で気をつけなければいけないこと——その2。「代換」では、本来あった単語の位置を変えることになります。そのため、文法のだけの考え方を押し通そうとすると、誤りになることあがりえます。
  • キーワード:誤り、間違える、間違う、間違い、誤る、失敗、思い違い、勘違い、見当違い、見間違える、誤解、早合点、思い違い、誤用
  • 例文を見る)
  • 引用は、『天使な小生意気』1巻表紙からです。

    この『天使な小生意気』というタイトル自体が、「代換」の例になります。

    なにせ、このタイトル、日本語として間違っています。
    そのことは、あなたの使っているパソコンで「てんしなこなまいき」と入力して変換キーを押せば、すぐにわかります。なにせ、誤変換するのです。
    参考までに、私の使っているATOK12(古!)で変換すると、つぎのようになります。
    「点姿子生意気」
    とまあ、見事なまでに誤変換してくれます。あなたのIMEでも、「天使な小生意気」を辞書登録するという、おかしなマネをしていなければ、見事に誤変換してくれます。

    念のため、どこが「代換」に当たるのかということを確認しておくと、つぎのようになります。

    まず、もともとは「小生意気な天使」という言葉であった。
    そのうち、被修飾語にあたる「天使」という言葉を「小生意気」の位置にもっていった。
    逆に、修飾語にあたる「小生意気」という言葉を「天使」の位置にもっていった。
    このように、両方を入れ替えることで、2つの関係が論理的に割り当てられた。

    …とまあ、こんな感じになります。

    このように、文法上は名詞があるはずの場所に形容詞(形容動詞)が入り、逆に形容詞(形容動詞)があるはずの名詞に入る。
    これが、「代換」のパターンのひとつです。

    これから下のほうに書くことになる「代換」の4つのパターンの中では、「限定語反転」にあたります。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「代換」が登場する数
  • 「代換」というレトリック。これはあまり見かけないものです。なぜかというと「代換」を成り立たせるためには、次にあげるような2つの関門があるからです。

    第1に。この「代換」は文法に抵触する、文法の規則違反ギリギリのレトリックです。そのために、誤って書いたんだと受け取られる可能性があるからです。

    第2に。この「代換」は、日本語ではめったにお目にかかりません。なぜなら、日本語の性質として、「語順の決まりが緩やかである」ということがあるからです。日本語には、
    • [主語(S)+目的語(O)+述語(V)]という順番で並ぶという規則
    • [形容詞+名詞]などように、[修飾語+被修飾語]という順番で並ぶという規則
    の2つしかないといっていいでしょう。日本語の文法には、欧米語の「格」のような、きびしい語順の規則がないのです。そのため、この「代換」の例を日本語のなかで見つけるのは、非常に困難です。

  • 深く知る2「代換」についての細かい定義
  • 実をいうと。

    この「代換」というレトリック用語の使いかたは、学者によってバラバラです。したがって、この「代換」を説明するのは、かなりやっかいです。しかも、長い文章になります。おまけに、難しい文章になってしまっています。

    その点を、あらかじめご了承ください。

    で、とりあえず。
    『レトリック事典』によれば、「代換」に含まれる可能性があるレトリックは、つぎの4つです。[
    • 狭義の《代換》(=倒装法?)
       ——名詞どうし、または名詞句どうしが、ことばの働きどおりの位置からお互いに入れかえること。
           (例):「金棒にはが不可欠であった」
    • 《形容詞転移》(=転移修飾語
       ——ある形容詞が、修飾しなければならないことばから離れて、関連する他のことばを修飾すること。
      (例)「和服に外套の駅長は、寒い立話を(以下略)」
    • 《限定語反転》
      ——限定語と被限定語との位置を、お互いに入れかえること。
      (例):引用した『天使な小生意気』は、この《限定語反転》
    • 《交差呼応》
       ——2つのことばどうしが、呼応する相手となるはずの関係先をお互いに入れかえること。
      (例):「声が見える。いざ、割れ目に赴かん、わがシスピーの顔が聞えるかもしれぬぞ」

    この4つのうち、どれを「代換」に含めるかについては、ちっとも意見が一致していません。

    そこで、ふたたび『レトリック事典』を見ると。そこには、8種類もの説が並んでいます。まさに、百家争鳴。

    しかたがないので、とりあえず『レトリック事典』をもとに表にしてみました(同書105ページ)。
    「○」マークがついているものが、「代換」に含めるもの。「○」マークがついていないものが、「代換」に含めないものです。
     狭義の代換形容詞転移限定語反転交差呼応 
       パトナム、シプリーなど
       カドン、ムーナン、マルゾーなど
      モリエ、
    『大修館英語学事典』
    (松浪有ほか[編]/大修館書店)など
     OEDなど
       『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)
     佐藤信夫「意味の《遊動性》」(広義)
       佐藤信夫「意味の《遊動性》」(狭義)
      ラナムなど
    と、「代換」についての考えかたを7つほど説明したあとで、『レトリック事典』の筆者は、
     狭義の代換形容詞転移限定語反転交差呼応 
    『レトリック事典』(大修館書店)(広義)
       『レトリック事典』(大修館書店)(狭義)
    という考え方をとっています。そのため、合計で8種類も「代換」についての説が書かれているわけです。

    さらに。
    私(サイト運営者)の手元にある資料の中で、「代換」について書かれているもの。ついでだから、これについても表にしておくと、
     狭義の代換形容詞転移限定語反転交差呼応 
       『日本語レトリックの体系』
    『文章読本笑いのセンス』
    (中村明/岩波書店)
       『レトリックの本』
    (石井慎二[編]/JICC出版局)
       『レトリック辞典』
    (野内良三/国書刊行会)
       『レトリック小辞典』
    (脇坂豊・川島淳夫・高橋由美子[共編著]/同学社)
       『言葉は生きている—私の言語論ノート—』
    (中村保男/聖文社)
       『レトリックと文体—東西の修辞法をたずねて—』
    (古田敬一[編]/丸善)
    (「ダンテのレトリック」の章に書かれている)
       『ラルース言語学用語辞典』
    (J・デュボワほか[著]/
    伊藤晃・福井芳男ほか[編訳])
     『現代英語学辞典』
    (石橋幸太郎[編集代表]/成美堂)(広義)
       『現代英語学辞典』
    (石橋幸太郎[編集代表]/成美堂)(狭義)
    という感じになりました(もしかしたら、間違いがあるかもしれないけれど)。まさに、侃々諤々。

    さて。
    では、このサイトでは「代換」を、どのように考えていくことにするか。そういった問題が、やっぱり出てきます。

    で、とりあえず。
    今現在のところ引用している『天使な小生意気』という文は、「限定語反転」です。なので、「限定語反復」は「代換」に含まれることにしておきます。
    そのほかについては、未定ということで…。

  • 深く知る3「代換」の下位分類
  • この「代換」には、先ほども書いたように、下位の分類として「 転移修飾語」というものがあります。
    このサイトでは、「 転移修飾語」ついては別のページにしました。ですので、そちらもあわせてご参照ください。

  • 深く知る4「倒置法」との関係
  • 「代換」で入れかわるのは、ことばの「関係」です。
    これに対して、ことばの「位置」がかわるレトリックとしては、「 倒置法」という用語があります。

    たしかに「代換」と「 倒置法」とは、近いタイプのものです。ですが「代換」は、『レトリックの消息』(佐藤信夫/白水社)に書かれていることばを借りれば、
    ただの単語の引っ越しではなく、二者のあいだで流動する視点を形成する
    というものです。

  • 深く知る5これは「限定語反転」なのかな?
  • 『彼氏彼女の事情』2巻152〜153ページ(津田雅美/白泉社 花とゆめCOMICS)
    • 彼氏彼女の事情
    • 番外編★桜の林の満開の下


  • あと。たぶん「限定語反転」だというニオイのする、そんな例として。
    ちょっと古いけれども。『彼氏彼女の事情』(津田雅美/白泉社 花とゆめCOMICS)2巻にある「番外編」のタイトルをあげておきます。

    その「限定語反転」なフンイキがある、「番外編」のタイトルというのは、
    「桜の林の満開の下」
    というものです。
    なおアニメでは、『彼氏彼女の事情』のACT 0.5のタイトルになっています。

    このフレーズが、「限定語反転」と感じる理由。それは、「満開」なのは「林」なのではなくて「桜」だということです。つまり、
    「桜の満開の林の下」
    または
    満開の桜の林の下」
    というふうに、「満開」ということばをズラしたほうが、しっくりくる。とまあ、そういうわけで「限定語反転」みたいだというわけです。

    なお。このタイトルが、
    『桜の森の満開の下』(坂口安吾)
    をマネてつけたタイトルだというのは、ほぼ間違いありません。ですが、『桜の森の満開の下』と「桜の林の満開の下」という2つの間には、なにか関係があるわけではなさそうです。しいていえば、作品のメインとなる場所が「桜の下」だというくらいしか、関連がないのではないと感じます。

    それと。このタイトルにつかわれている言いまわしで、老婆心ながら注意しておきたいことがあります。それは、正統な文法ルールにしたがって言えば。「の」という助詞を3回つづけるのは、あまりよいことではないということです。

    そのことは。コミックの182ページ〜183ページに書かれている、有馬のモノローグ。そこからも、うかがい知ることができます。

    どういうことなのかというと。有馬のモノローグは、
    こんなにはっきりと
    なにかを望むのははじめて
    四月の風が
    花びらを空に
    舞いあげる
    満開の桜の下で
    となっているのです。この「番外編」についているタイトルは、「桜の林の満開の下」となっている。なのに、あえて「満開の桜の下で」という言いまわしを使っているのです。ここからも、意識的に「の」が3回も連続するのを避けていると受け取とることができます。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 代換・代換法
  • 呼び方2
  • ハイパラジー、イパラージュ
  • 呼び方1
  • 変換法、転移
  • 参考資料
  • ●『レトリック事典』(佐藤信夫[企画・構成]/大修館書店)
  • 辞典とは思えないほど、細かな点について書かれています。
  • ●『レトリックの消息』(佐藤信夫/白水社)
  • 「代換」について、かなり踏みこんだことがかいてあります。同じ者の『レトリックの意味論—意味の弾性—(講談社学術文庫 1228)』(佐藤信夫/講談社)にも、「代換」にかんする記載があります。
  • ●『言葉は生きている—私の言語論ノート—』(中村保男/聖文社)
  • こちらも「代換」について、くわしく書いてあります。
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