倒置法:ことばの順番を、普通とは逆のものにする
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倒置法 とうちほう hyperbaton

『無限のリヴァイアス』1巻49ページ(栗橋伸祐・矢立肇・黒田洋介/メディアワークス 電撃コミックス)
  • あたしは 知らなかった…
  • 昴治と祐希のことも 現状も
  • これから起こることも
  • あたしはただほっとしていた
  • 避難できたことじゃなくて——

  • そういうことじゃなくて——
-『無限のリヴァイアス』1巻49ページ(栗橋伸祐・矢立肇・黒田洋介/メディアワークス 電撃コミックス)
  • 定義重要度4
  • 倒置法は、ことばの順番を、普通とは逆のものにすることです。つまり、一般的な語順に逆らって、ことばの場所を変えるものです。言いかえれば、通常の語順をひっくり返すレトリックです。

  • 効果

  • 効果1倒置により後ろに来た部分を、強調する

  • この「倒置法」は、伝えたいことを強調するためなどに使われます。このばあい、後ろに来た文が強調されます。
  • キーワード:後ろ、後方、最後、後半、力点、ピント、焦点、要点、ポイント、重点、キーポイント、強調、強い、強まる、強める、強化、増強

  • 効果2意外性をねらうために、あえてコトバの順序を入れかえる

  • コトバの順序が、入れかわることになります。ですので、受け手(聞き手・読み手)にとっては意外性のあるものとなります。
  • キーワード:意外、思いがけない、思いもよらない、思いのほか、図らずも、意想外、存外、慮外、不測、不意

  • 効果3感情の起伏をありのままに表現することが、結果として倒置になる

  • 詩や俳句などで、感情や感動をあらわしたい。そんなときには、ありのままに表現するために「倒置法」を使うことがあります。韻を踏むなどの都合で、倒置になることも多く見られます。
  • キーワード:詩歌、詩、和歌、短歌、俳句

  • 効果4調子を整えて余情を出し、味わいを生む

  • とくに詩などでは、コトバの位置を入れかえることがああります。これは、韻を踏んだり音の長さを整えたりするのに「倒置法」が役立つためです。
  • キーワード:調子、具合、加減、流れ、歯切れ、語呂、強調、語勢、余情、余韻、趣き、情趣、趣向、味わい

  • 効果5「倒置」にしたフレーズの部分に、読者を引きつける

  • 受け手(読み手・聞き手)を、カンタンに引きつける。その方法として、「倒置法」が役に立ちます。
  • キーワード:引きつける、接近、アプローチ、引く、見入る、魅惑、訴える、知らせる、知らせ、告げる

  • 効果6気分が高まったり、感動したときに、その感激を伝えることができる

  • 気分が高まったり、感動したとき。その感激や驚きを伝えるのに役立ちます。
  • キーワード:感情、気持ち、心外、思い、心持ち、気分、感情、感動、感きわまる、感激、感慨、驚嘆、驚く、驚き、驚かす、はっとする、息をのむ、驚異、舌をまく、あっと言わせる、起伏、波、上がり下がり、波打つ、浮き沈み、浮沈、高まり、高まる、盛り上げる、盛り上がる
  • 使い方
  • 使い方1通常の語順をひっくり返す

  • あることばを、自然な位置からほかの位置へと移すものです。
  • 使い方2ことばの順番を、普通とは逆のものにする

  • 一般的な語順に逆らって、ことばの場所を変える。そうすると、日本語の文では、ふつうの(日本語の)文では、述語が最後に置かれます。ですので、これに逆らって述語に当たる部分を先に出してきて、主語に当たる部分を後にもってくる。それが、基本的な「倒置法」のかたちです。
  • 注意

  • 注意1事務的な文章には、使ってはいけない

  • たいていのレトリックがそうであるように、「倒置法」を事務的な文で使うことは避けるべきです。

  • 注意2使いすぎたり、乱用してはいけない

  • 意識的に「倒置法」を使うと、効果を発揮しやすいレトリックです。これは、日本語のリズムが単調なためです。ですが基本的に「倒置法」は、文のレベルで位置を変えるという大がかりなレトリックです。そのため、これを乱用すると、何が言いたいのかが分からなくなってしまいます。
  • キーワード:乱用、使いすぎ、みだり、不当、でたらめ、むちゃ、むちゃくちゃ、行きすぎ、余りに、やたら、むやみ、軽はずみ、軽率、軽々、無分別、むやみやたら、ルーズ
  • 例文を見る)
  • 引用は『無限のリヴァイアス』1巻

    このコミックスのほうでは、「蓬仙あおい」が主人公。

    その蓬仙あおい達は、宇宙にある航宙士の訓練所(リーベ・デルタ)で訓練を受けながら生活をしていた。しかし突然、事故が発生。とりあえず中央にある宇宙船(リベール)に避難することになる。しかし、同じ訓練所にいたはずの幼なじみの相葉昴治が、避難してきていない。

    が、ギリギリのところで昴治は避難できたことを、あおいは知る。それを知ったときの、あおいの独白が引用のシーンです。[[dvsqあたしは 知らなかった…
  • 昴治と祐希のことも 現状も
  • これから起こることも
という引用したところは、文が逆さまになっています。「あたしは知らなかった…」で終わりかと思ったら、つけ足したように「昴治と祐希のことも 現状も これから起こることも」という文がついてきます。この部分が「倒置法」にあたります。

いちおう、これが「倒置法」であることを確認しておきましょう。

本来ならば
昴治のことも祐希のことも 現状も これから起こることも あたしは知らなかった…。
というように、倒置になっていた文章が文の流れどおりに戻ります。ですので、これは「倒置法」に分類されます。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「倒置」とは何なのか
  • 「倒置法」とは、ことばが「普通」・「一般的」・「通常」・「自然」な位置とはひっくり返っていることをいう。そのように定義しました。

    ですがまあ、実をいえば。

    ことばの順番が、「普通」だとか「一般的」だとか「通常」だとか「自然」だとか。そういうことを厳密に考えるのは、大変なことです。
    はたして、いったい何が「普通」なのか。それは、一見すると簡単な疑問のように思えます。ですが、深く考えてみると、とても哲学的で、すぐに答えの出る問題ではありません。

    まあとりあえず、そんなことを深く考えるのことは、やめておきます。そうでないと、「倒置」というものがどんな状態なのか分からなくなってしまうからです。

  • 深く知る2日本語の「倒置法」
  • 日本語の場合には、この「倒置法」というものを考えるのは、少しやっかいです。というのも、日本語の性質として「ことばの順番についての決まりが、ほかの英語などよりも緩やか」だからです。

    日本語で語順に関する規則は、次の2つしかありません。
    • 動詞、形容詞、形容動詞などの述部が文末に来る
    • 修飾語が被修飾語の前に来る
    の2つです。

    つまり日本語は、ことばの順番についての「しばり」が、あまり強くないのです。わりと自由に、単語のならびかたを変えることができるのです。

    そんなわけで「倒置法」は、日本語に簡単に当てはめて考えてみることができないものです。なので「倒置法」は、やっかいなレトリックでもあります。

  • 深く知る3「倒置法」を使うばあいのデメリット
  • 「倒置法」を使うばあいに、気をつけなければならないこと。それは、「使いすぎると、意味不明の文章になってしまう」ということです。

    これまで書いてきたように「倒置法」というのは、ことばの順番を「普通」とはひっくり返して使うことをいいます。なので、どうしても「不自然」な文ができあがります。「不自然な文章」というものは、とあるレベルを過ぎると「意味不明の文章」になりかねません。ですので、そのあたりには気をつける必要があります。

    もちろん、1つくらい「不自然」な文があったとしても、読んでいる人・聞いている人が伝えたいことをキャッチできます。なので、なにも問題なくコミュニケーションをすることができます。

    もっといえば、印象を強くしたい文をワザと「倒置」にする。そのことによって、読んでいる人・聞いている人が「倒置」されている文章のところで、なにかしらの「不自然さ」を感じとる。そうやって、印象を強くしたいという目的をはたすこともできます。

    また、日ごろいつも実際に交わしている「会話」。この「話しことば」のなかでは、実際にはとても多くの「倒置」が使われています。ですが、たいていのばあいには、ちゃんと意見のやりとりが成りたっています。

    ですが。
    そのように使われている「倒置」というものが、文法のルールどおりのものではないということ。そのことは、十分に気をつけておく必要があります。たとえば文章を書くときには、ムダに「倒置」を使うということはしないほうがいいでしょう。というのは、もし必要以上に「倒置」があると、それは「不自然」な文であるばかりでなく、とても読みづらい文章になるからです。

  • 深く知る4「倒置法」と「追加法」との違い
  • 「倒置法」は、文章の中でコトバの順序を入れかえるものです。これにたいして「追加法」は、いちど終わった文に、さらにつけ足しをするというレトリックです。この「倒置法」と「追加法」は、ほとんど同じことを意味します。

    ですが、いちおう「倒置法」は倒置していない状態に文を戻すことができる。これに対して「追加法」は、「倒置法」のように逆転することができない。そのように分けることができます。
    :補足、補う、補い、補充、添加、加える、プラス、つけ加える、つけ加わる、肉づけ、足す、つけ足す、継ぎ足す、継ぐ、付加、追加

  • 深く知る5話し手が思いついた順に言ったにすぎないとき
  • 単に話し手の思いついた順番に言葉を並べた結果、普通の文法と異なる語順になってしまった、ということもあります。はたして、このようなものまで「倒置法」として、レトリックに含めるかどうか。これについては、議論の分かれるところです。けれども基本的には「倒置法」に入れないとされています。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 倒置法・倒置
  • 呼び方1
  • 転倒
  • 別の意味で使われるとき
  • ●「倒裝法」を意味する「倒置法」
  • まれに「倒置法」が、「倒装法」を意味するレトリック用語として使われることがあります。この2つは性質が似ているうえ、「倒装法」というレトリック用語がマイナーだからです。このサイトでは「hyperbaton,inversion」には「倒置法」をあてて、「hypallage」には「倒装法」をあてることにします。
  • 参考資料
  • ●『日本語のレトリック—文章表現の技法—(岩波ジュニア新書 418)』(瀬戸賢一/岩波書店)
  • 一見すると、子供向けの本に思われるかもしれません。ですが、取りあげているレトリック用語の説明は、かなりていねいです。「です・ます体」で書かれているので、人によっては合わないかもしれませんが。
  • ●『日本語解釈活用事典』(渡辺富美雄・村石昭三・加部佐助[共編著]/ぎょうせい)
  • 「倒置法」について、1つの章を使って説明してあります。かなり重視しています。追う」を使ったばあいの効果についての記述も多いので、参考になります。
  • 余談

  • 余談1『無限のリヴァイアス』のタイトル
  • 今となっては、昔のことですが。『無限のリヴァイアス』というアニメが放送されていました(1999年〜2000年)。

    この『無限のリヴァイアス』を見ていた人(それから、『無限のリヴァイアス』のコミックを読んだ人)には、すぐわかることが1つあります。
    それは、各話のタイトルが「ひらがな」になっているということです。

    参考までに、アニメ版のほうのタイトルを書いてみますと、
    • Sere1 きたるべきとき
    • Sere2 よけいなこと
    • Sere3 うなばらをこえて
    •     (以下略)
    …明らかに意識して「ひらがな」になっています。
    このワザと「ひらがな」になっているという点は「 字装法」というレトリックにあたります。
    (「 字装法」については、そちらを参照してください)