逆説法:よく考えると理にかなっている考え方
TOPページ逆説法
関連レトリック逆説法

逆説法 ぎゃくせつほう paradox

『D・N・ANGEL』4巻51ページ(杉崎ゆきる/角川書店 あすかコミックス)
  • 瑪瑙[約束の日に
  • 今度はやっと逢えた——…!
  • ずっとお礼が言いたかったの
  • …ありがとう…
  • 小さな怪盗さん…]
  • じいちゃん「…そうか
  • あの子はいったか…」
  • 大助「じいちゃん …知ってたんだ」
  • じいちゃん「ああ… あの美術品を
  • 見つけた時からな
  •  ——中略——
  • 内気で体の弱い子じゃった
  • あの子の時々笑う顔が
  • 本当に好きでな
  • 瑪瑙という名前以外は何も
  • 知らんかったが
  • わしの稼業の為ではなく
  • 瑪瑙の環を
  • 彼女にあげたいと
  • 思ったんじゃよ
  • そして渡した時
  • わしは自分の正体を
  • 明かそうと決めておった
  • じゃがそれは まにあわなんだ
  • 約束した日を待たずに
  • 彼女は
  • 逝ってしまったんじゃよ
  • わしはそのまま瑪瑙の環を
  • 彼女の手元に置いて
  • それきりじゃった…
  • 今日が
  • その「約束の日」だったんじゃ」
  • 大助「だったら…!
  • じいちゃんが行ってあげれば
  • よかったんだよ!!
  • 瑪瑙さんは
  • じいちゃんを待っていたんだよ」
  • じいちゃん「あの子はな 14歳のわしを
  • ずーっと待っとったんじゃよ
  • 今のわしは 知らんのじゃ
  • 彼女の思い出の中の
  • 14歳のわしを…
  • よいか大助
  • 盗むだけが怪盗ではない
  • 時には…
  • 必要な人に夢を与える
  • それも怪盗の仕事なんじゃ
  • 幸せにする嘘というのも
  • あるものなんじゃよ
-『D・N・ANGEL』4巻51ページ(杉崎ゆきる/角川書店 あすかコミックス)
  • 定義重要度4
  • 逆説法は、パッと見た目には非常識に思えるけれど、よく考えると理にかなっているというレトリックです。つまり、世間で一般的なことと、正面から反対のことを言うことによって、そういった別の考え方もできると思いなおすものです。

  • 効果

  • 効果1今までにはない、刺激的な表現ができる

  • いままでの経験からすると、起こらないだろうと思っていること。予想外にも、そのことが実際に起こったばあいには、刺激的な文となります。
  • キーワード:刺激的、興奮、エキサイト、意表に出る、思いがけない、思いもよらない、思いの外、期せずして、図らずも、予想外、意表外、衝撃的、ショック、打撃、痛感、反逆的、反抗、驚かす、はっとする、息をのむ、仰天、驚く、驚嘆、驚異

  • 効果2一見すると常識を逆なでする、奇抜なものになる

  • 常識を逆なでするような、一見すると非常識な言いかたになる。しかしよく見てみると、一里あると思わせるられる表現を作り出すことができます。
  • キーワード:常識を逆なでする、常識の裏をつく、非常識、唐突、急に、ふいに、突然、突如、挑戦的

  • 効果3注意を向け、興味を持ってもらうようにする

  • 刺激的な表現が使われる。それによって、受け手(聞き手・読み手)の興味をひくことができます。
  • キーワード:注意をひく、要注意、興味をひく、関心、不意をつく、不意打ち、抜き打ち
  • 使い方
  • 使い方1一見すると、食い違いがあって矛盾している

  • 世間で一般的なことと、正面から反対のことを言う。一見すると、矛盾していると思わせることを伝えることなります。ですのでその発言は、表面的には矛盾していることになります。
  • キーワード:矛盾、食い違う、ずれ、齟齬、背反、相容れない、対立、張りあう、対抗
  • 使い方2よく考えると、真実らしい表現になる

  • たしかに、見逃しがちな側面だけれども。よく考えると、理にかなった真理を含んでいる。なので、いままでとは違ったもののとらえ方をすることになります。
  • キーワード:見逃しがち、見損なう、見過ごす、看過する、奥深い、深い、深長、深奥、深遠、よく考えると、真実、正しい、本当、もっとも、合理、真理、筋道、ことわり、道理、理屈
  • 注意

  • 注意1あまりに奇抜だったり非常識だったりすると、受け入れられない

  • あまりに奇抜だったり非常識だったりすると、受け入れられないこともあります。「逆説法」を使うときには、相手側(聞き手・読み手)が最終的にはなっとくできるようなものであることが、必要です。
  • キーワード:奇矯、奇妙、珍奇、風変わり、型破り、目新しい、奇警、奇矯、奇をてらう、非常識

  • 注意2奇抜さを失うと、マンネリ化しやすい

  • 何度も「逆説法」を使うと、新鮮さを失って飽きられてしまう。そのため、マンネリ化しやすくなります。
  • キーワード:マンネリ化、マンネリズム、陳腐、常套、お決まり、古くさい
  • 例文を見る)
  • 例文は『D・N・ANGEL』4巻から。

    右に書いた文章は、44〜51ページからの引用という、長いものです。長く引用をするべきか短く書こうか迷いました。ですが結局、長い引用のほうを選択しました。これは、状況がつかめないと「逆説法」が使われているシーンが把握しづらいだろうという考えからです。

    長く引用したのですが、さらに補足。

    主人公は「丹羽大助」。

    大助の家系は、怪盗を稼業としている一族。14歳になると、怪盗をはじめることになっている。今は、大助が怪盗をしている。
    しかし、じいちゃんが14歳の頃には、じいちゃんが怪盗をやっていた。
    そこで出会ったのが、瑪瑙という名前の子。
    以下は、引用したとおりのストーリー展開になっています。

    で、そのことについての、じいちゃんの意見が、
    幸せにする嘘というのも
    あるものなんじゃよ
    というもの。ふつう「嘘」というのは、イケナイことです。「嘘はドロボウのはじまり」という言葉もあるし。なぜか私(サイト作成者)目のつくところにおいてある「六法」の刑法を見れば、「嘘」がいたるところで罪となっています。
    • 「嘘」のお金を作って使えば「通貨偽造」。
    • 「嘘」の文書を作って使えば「文書偽造」。
    • 「嘘」の印鑑を作って使えば「印章偽造」。
    • 「嘘」のことを言ってお金をだまし取れば「詐欺」。
    …もう十分にくどいのでやめにします。言いたいのは、「嘘」は良くないことだというのが常識的な考えだということです。

    ですが、ここに「幸せにする嘘もある」という言葉が投げ込まれる。すると、常識的には「良くない」ことだったはずの「嘘」が、「良いこと」の一面も持っていることになる。そして、その考え方にも一理あると思わせられる。これが「逆説法」です。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1「逆説法」についての説
  • まず最初に1つ、言葉の解説をしておきます。それは「通念」という言葉です。

    これから先、ここのページの解説の中で、「通念」という言葉を連発します。この「通念」というのは、「一般的な考え方」「常識的な考え方」というような意味だと思って、読んでみて下さい。

    また「逆説法」には、従来からの説と、新しい説とがあります。ですので、両方ともならべて書いておくことにします。

  • 深く知るa従来からの説
  • 従来からの説は、「対義結合」と「逆説法」とを、同じカテゴリーに入れる考え方です。これによれば、
    • 一見したところ非常識な言葉だと思われるが、実際には真実にかなっている。
      (常識の裏をかいて意表をつくことにより、真実だと思われていたものを崩すことになる)


    • 「対義結合」とは、「世間の暗黙の了解に対する違反」という点で同じ系列に属する。
      したがって、規模が大きくなるにつれて、
        「 対義結合」→「矛盾語法・撞着語法」→「逆説法」
      という名前に進化していくと言える。


    • 真実性が一般的に認められるようになると、それは「通念」となる。
    ということになります。

    このサイトでは、この説にしたがって「 対義結合」と「矛盾語法・撞着語法」と「逆説法」について解説しています。

  • 深く知るb新しい説
  • しかし、これに反対する新しい意見も登場しています。これによれば、
    • 真実を言い当てていることは確かだが、それは一面的なものにすぎない。通念のほうも生き続ける。
      (常識の裏をかいて意表をつくことは確かだが、それは通念を崩すものではない)


    • 「対義結合」は、見かけでは矛盾しているように見える。しかし実は、意味をニュアンスを変えて両立している。
      これに対して「逆説法」は、本来の意味のままで、真っ向から対立する。
      したがって、「逆説法」と「対義結合」は、異なる系列に属する。


    • 一般的な考え方を否定するものであるが、けっして「逆説法」が「真実」に代わることはできない
      言いかたをかえれば、「逆説法」というものは「真実」があってはじめて成り立つものといえる
    ということになります。

  • 深く知る2「逆説法」と論証のかたち
  • この「逆説法」は、たいていのばあい論証抜きのかたちをとります。つまり、「大前提」→「小前提」→「結論」という論証をふむことのない、断定のものとなります。その意味で「三段論法」という言葉と対比するならば、「一段論法」ということになります。

    そしてそれは、社会にある通念と比較するまでもなく、直感的に「逆説」だと分かるためです。そのために、たいていの場合には、論証がない「一段論法」で「逆説」を用いることができるのです。

    このことから、言葉が通念とは、深く結びついていると言えるでしょう。

  • 深く知る3「逆説法」と「ことわざ」との関係
  • 「逆説法」が、たくさん使われているものとして。「 ことわざ・諺」「 成句・イディオム」があげられます。たとえば、 たとえば、「急がばまわれ」「負けるが勝ち」といったものです。

    「逆説法」の条件にあてはめてみると、
    • 一見すると、世間一般の考え方に反していると思われる。
    • けれども、よくよく考えてみると、そういった逆の考え方もできることがわかる。
    といったかんじで。「逆説法」を使った「 ことわざ・諺」は、数多くあります。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 逆説法・逆説
  • 呼び方2
  • パラドックス・パラドクス
  • 参考資料
  • ●『修辞的思考—論理でとらえきれぬもの—(オピニオン叢書44)』(香西秀信/明治図書)
  • 「新しい説」ととっているものについては、こちらをおすすめします。「第二話」が「逆説は通念に寄生する」というタイトルになっていることからも分かるように、「逆説法」が「真実」に代わることはできない、という立場をとっています。同じ者の『レトリック探究法(シリーズ〈日本語探究法〉7)』(柳澤浩哉・中村敦雄・香西秀信[共著]/朝倉書店)も参考のこと。
  • ●『レトリック認識(講談社学術文庫 1043)』(佐藤信夫/講談社)
  • 「従来の説」をとっているものについては、をおすすめします。「第5章」が「対義結合と逆説」というタイトルになっていることからも分かるように、「対義結合=逆説」という立場をとっています。『日本語のレトリック(講座日本語の表現 5)』(中村明[編]/筑摩書房)の佐藤信夫氏の執筆部分も参照のこと。
レトリックコーパス該当ページへ
  • 別の意味で使われるとき
  • ●論理学・数学でのパラドックス
  • 「逆説法」は、「パラドックス」とよばれることもあります。これは、この「逆説法」の英訳が「paradox」になっていることからも分かることです。

    ですがふつう、「パラドックス」ということばと「逆説法」ということばとは、区別してつかいます。『新明解国語辞典』の説明によると、つぎのような分けかたをするそうです。
    • 「パラドックス」
      一見成り立つように思えるが言語表現などが、それ自体に矛盾した内容を含んでいて、論理的に成り立たないこと。またその種の判断。「わたしはうそしかつかない」という表現の類。
    • 「逆説法」
      表現の上では一見矛盾しているようだが、よくよくその真意を考えてみると、人情の機微や事の真相などを的確に指摘している説。例、「急がば回れ」など。
    とのことです。
    このように言葉を使い分けて区別するのが、一般的のようです。

    そして、もちろんこのページで扱うのは、「パラドックス」のほうではなくて「逆説法」のほうです。上で「パラドックス」といっているのは、ふつう論理学とか数学で使われるものです。

    なお、"paradox"の語源について書いておきます。
    この言葉の語源はギリシャ語。前半の「パラ」は「〜に反する」という意味。後半の「ドクサ」は、「常識」「通念」といった意味。
    なので、2つ合わせて「常識に反する」とか「通念に反する」といった意味になります。