挿入節:かなりの長さで横道にそれて言葉を割りこませる
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関連レトリック挿入節

挿入節 そうにゅうせつ parenthetic clause

『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』1巻5ページ(イチハ/白泉社 花とゆめコミックス)
  • 滸「オッサン
  • 人のツレの尻
  • 撫で廻すの
  • 止めてくんない」
  • オッサン「失礼だな君…
  • !!
  • …女性!?」
  • 滸「どっちが
  • 失礼なんだよ」
  • 炯至「滸
  • 見間違えとかじゃ
  • なくて…?
  • 滸 本当にその人
  • 痴漢なの?」
  • オッサン「そうだ!!
  • だいたい私だと
  • ゆう証拠が あるのかね!!」
  • 滸「ああ?
  • 私がずっと
  • (炯至の尻眺めてて
  • 超触りてぇ♡とかゆう
  • 欲望 必死こいて押さえて
  • たら 視界にテメエの汚ねえ
  • 手が出てきて 下から
  • 上へと流れるように
  • ね——っとり
  • 撫でてく様を克明に)
  • 見てたんだよ!!!」
  • ——炯至の尻を撫でた痴漢に対し、こんなにも
  • 羨望に満ちた嫉妬を
  • 感じ得ないのではないのだろうか
-『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』1巻5ページ(イチハ/白泉社 花とゆめコミックス)
  • 定義重要度2
  • 挿入節は、文の流れからかなりの長さで横道にそれて、ことばを割りこませるレトリックです。

  • 効果

  • 効果1余談をあらわす

  • 挿入節は、文章のメインの流れから横道にそれることになります。したがって、その部分は「余談」をあらわすことになります。
  • キーワード:余談、脱線、外れる
  • 使い方
  • 使い方1文の流れを、いったん中断する

  • 「挿入節」は文の途中で、そのメインの文脈とはズレた文を入れるものです。言いかえれば、本文の流れをいったん中断させるほど長く、ほかのことばを割り込ませるものだともいえます。
  • キーワード:ズレる、ズラす、食い違う、齟齬、中断、割りこむ、くい込む、食い入る
  • 注意

  • 注意1どこからどこまでが「寄り道」なのかをハッキリさせる

  • 挿入節は、かなりの長さで文章を中断させるものです。なので、どこからどこまでが「挿入節」として中断されているのかをハッキリさせておく必要があります。この点については、下のの項目も、ご参照下さい。
  • キーワード:ハッキリ、くっきり、明らか、明瞭、明白、見るからに、鮮明、明解、すっぱり、きっぱり
  • 例文を見る)
  • 例文は、『女子妄想症候群(フェロモマニアシンドローム)』1巻から。

    主人公の名前は、「滸(ほとり)」。身長178センチ(♀)。
    そして、その「滸(ほとり)」と第1話で付きあうことになったのが「炯至(けいし)」。身長155センチ(♂)。

    「滸(ほとり)」と「炯至(けいし)」という、このカップル。たしかに、女である「滸(ほとり)」のほうが断然に背が高い。だけれども、それよりも大きなハードルがある。それは、
    「炯至(けいし)」が、犯罪的にカワイイ
    というところです。ようするに、女のコである「滸(ほとり)」よりも、少年である「炯至(けいし)」のほうが可愛らしいのです。そして、子供のころから炯至(けいし)」といっしょにいた「滸(ほとり)」は、「炯至(けいし)」のことが大好きになっています。というか、「滸(ほとり)」本人のことばを借りると、
    異様に色欲の強い
    女に成り果てていた (19ページ)
    のです。

    まあ。そのような事情で、「炯至(けいし)」が痴漢に遭ってしまったあたりを引用してきました。

    上に書いたように、「炯至(けいし)」がカワイイ。
    なので、痴漢にねらわれたのは、とうぜん「炯至(けいし)」です。女のコである「滸(ほとり)」は、制服がスカート。なのに、痴漢のオッサンは「炯至(けいし)」を襲う。まあようするに、誰が見ても「炯至(けいし)」は女のコっぽいのです。

    で。痴漢をしたオッサンを捕まえた「滸(ほとり)」なのですが。そのときに、オッサンに浴びせかけたことば。それが、「挿入節」というわけです。つまり、
    • 滸「ああ?
    • 私がずっと
    • (炯至の尻眺めてて
    • 超触りてぇ♡とかゆう
    • 欲望 必死こいて押さえて
    • たら 視界にテメエの汚ねえ
    • 手が出てきて 下から
    • 上へと流れるように
    • ね——っとり
    • 撫でてく様を克明に)
    • 見てたんだよ!!!」
    というところにある、( )で囲まれた長々としたフレーズ。これが、「挿入法」になっているというわけです。

    さっきも書いたように。
    「滸(ほとり)」は、「炯至(けいし)」のことが好きです。それも、“色欲的な意味で”「炯至(けいし)」が好きです。そういったわけで、女のコである「滸(ほとり)」は、男のコである「炯至(けいし)」のお尻を眺めていた。そんなときに、痴漢が「炯至(けいし)」のお尻を触ってきた。なので、痴漢だとすぐに分かった。といったわけです。

    もちろん。
    痴漢のオッサンに投げつけたのは、私がずっと
    見てたんだよ!!!
という、ただそれだけだと思われます。ですが「滸(ほとり)」のココロにある叫び。それは、
  • 滸「ああ?
  • 私がずっと
  • (炯至の尻眺めてて
  • 超触りてぇ♡とかゆう
  • 欲望 必死こいて押さえて
  • たら 視界にテメエの汚ねえ
  • 手が出てきて 下から
  • 上へと流れるように
  • ね——っとり
  • 撫でてく様を克明に)
  • 見てたんだよ!!!」
といったものです。

この、なんとも“色欲的な意味で”羨望と嫉妬に満ちたココロの声。ここは、痴漢のオッサンに怒りをぶつけるという話のメインからは、ちょっと脱線をしています。そういったわけで、この部分は「挿入節」というレトリックだと言うことができます。
  • レトリックを深く知る

  • 深く知る1挿入節のグループ
  • 「挿入句」の系列には、次のようなレトリックがあります。
    • 挿入句:挿入する部分が短くて、もとの文を中断させずに補足する程度に限られるレトリック
    • 挿入法:文の流れをいったん中断して、ある程度の長さの言葉を割り込ませるレトリック
    • 挿入節:文が中断され、かなりの長さで話が横にそれるレトリック
    • 脱線法:大がかりな挿入法で、話の本筋とは関係ない話が長い間、展開するレトリック
    くわしくは、それぞれの項目を参照してください。

  • 深く知る2「挿入節」を使うときの注意点
  • この「挿入節」は、文の流れの途中で、ことばを割りこませるレトリックです。つまり、ある1つの文があるなかで、とつぜん寄り道をするような「節(フレーズ)」が入る。そして、すぐにもとの本文にもどる。それが、「挿入節」です。

    なので、この「挿入節」を使うときには、ちょっと注意点があります。それは、「どこからどこまでが寄り道なのかということを、ハッキリさせる必要がある」ということです。

    どういうことかというと。
    ふつう「挿入節」で割りこむことになる「節(フレーズ)」というのは、かなり長い。そのため、文の流れが「本題」からズレているあいだに、長々とした「寄り道」がつくられることになる。と、ようするに「本題」から離れているフレーズが、かなりの量になる。

    これは、文を読む(または聞く)側からすると、かなりの負担になります。その文で話題にしていることが、「本題」から「寄り道」に入る。そして、ずっと「寄り道」が続く。そのため、もう「本題」が何だったのかを忘れたころに、「本題」に戻る。こんなふうに、文のメインとなっているはずの話題が、あっちへいったり、こっちへいったり、といったことになるわけです。このことは、読み手(聞き手)のアタマを混乱させかねません。

    こういったことを避けるためには。
    このページで引用した例文のように、( )でくくる、といった方法があります。( )で囲まれたところは、「寄り道」だということがすぐに分かります。ですので、フラフラした文にはなりません。

    もちろん。
    上に書いたような( )記号だけではなく、「 」だとか〈 〉だとかで囲い込んだばあいでも、同じように混乱を避けることができます。また、そのようなカッコを使わずに、——という記号で挟みこんでもOKです。

    もう1つの方法として。
    かなり難しいテクニックになりますが、「挿入句の終わりを、句点(。)で区切る」、というパターンが考えられます。ほんとうのところは、「挿入句」よりも、むしろ「寄り道」が長い「挿入法」だとか「挿入節」のほうが、使いやすいテクニックです。けれども文の流れによっては、「挿入句の終わりを、句点(。)で区切る」、といったこの方法を利用することもできます。

  • 深く知る3『レトリック事典』での、「挿入法」の説明
  • 『レトリック事典』は、「 挿入法」を細かく分けることには否定的です。つまり、確かに伝統的なレトリックでは「 挿入法」と「 挿入句」とを区別していた。けれども、これを下位の種類に分類することが有意義かどうかは別である、と。

    けれども、このサイトでは伝統的レトリックにしたがっておきます。つまり、いちおう「挿入法」と「挿入句」の区別をつくっておくことにします。

    なお、念のために書いておくと。
    『レトリック事典』は、「 挿入法」(parenthesis)のことを「(自立)挿入語句」と呼んでいて、「 挿入句」(parembole)のことを「(依存)挿入語句」と呼んでいます。

  • 深く知る4『日本語レトリックの体系』での、「挿入法」の説明
  • それから。
    『日本語レトリックの体系』によると、「折挿法」というレトリックがあります。この「折挿法」は、「文の途中で他の文章をはさみ、そして再びもとの文に戻って続ける」という趣旨の説明がされています。

    ですので。
    この「折挿法」は、「 挿入法」か、もしくはそれに近いレトリックと位置づけることができます。
  • レトリックの呼び方
  • 呼び方5
  • 挿入節
  • 参考資料
  • ●『現代言語学辞典』(田中春美[編集主幹]/成美堂)
  • 英語での解説でもかまわない。そんな人には、こちらがオススメです。
  • 余談

  • 余談1「炯至(けいし)」という名前に使われている漢字について
  • コミックでは、厳密にいえば。
    「けいし」という名前に使われている漢字は、「炯」ではなく「烔」という文字です。この「烔」は、第3水準の漢字です。「火へん」に「同」と書かれるものです。

    この「烔」という文字。これは、私(サイト作成者)のマシンでは、
    • 【表示できる】
      環境OS:Windows XP ブラウザ:IE、NN、Opera、Firefox、Safari。


    • 【表示できない】
      環境OS:Windows 98 ブラウザ:IE
    という結果でした。

    なので。
    いまだに現役で使われているパソコンで「烔」は、ふつう表示できるとは思います。

    ですが、このサイトでは「炯」の文字を使っておくことにします。
    その理由は、以下の3つです。
    • 白泉社のサイトでは、「炯」で代用していた。


    • ふつう「炯」という漢字は「ケイ」と読むけれども、「烔」という漢字は「ケイ」と読めない。


    • このサイトは、「Windows98」で来る人がなぜか多い。(だいたい5%くらい)※あくまで執筆当時のことですので
    というわけで。いちおう正式なのは、「烔至(けいし)」だということで。