ここまでは。
「慣用重複」を使わなくてもよい場面について、いろいろと書いてきました。つまり、なにかを相手に伝えるということだけを考えれば、とくに必要だというわけではないという場面を前提にしていました。
ですが、日本語には。「慣用重複」を使わないで表現するということが、かなり難しい
というものがあります。
それは、どういうものかというと。漢語を和語でくり返す
ばあいです。つまり、一度「漢語」で使われたことばを「和語」で受けようとするとき。そのときに、「慣用重複」を避けにくいものがあるのです。
上に書いたのは抽象的なので。具体例として、書類に書く
といった表現を見てみることにします。
まず、「書類」ということば。これは、漢語です。もしかしたら「書類」というのは、日本人がつくった単語かもしれません(つまり、和製漢語なのかもしれなません)。けれども、そのあたりを深く考えなければ、「書類」ということばは漢語です。
つぎに、「書く」ということば。これは、和語です。「書く」ということばを「ショく」というふうに読むのはムリです。おそらく、ゼロと言っていいでしょう。なので、「書く」は和語です。
さて。ここで、「書類を書く」という単語を見てみると。
漢語である「書類」に使われている「書」という文字が、和語である「書く」というところでも登場していることがわかります。
そして、ここで注目したいのは、「書類を書く」という言いまわしが、ごくふつうのものだ
ということです。
ここで。
「書類を書く」という意味に近いことばと比べて、「書類を書く」という言いまわしがどれくらい多く使われているのか。それについて、サーチエンジンで調べてみます。
つまり。
もしも「書類を書く」という言いかたが「あまりよろしくない」と考える人が多ければ。「書類を書く」というフレーズは「避けられている」ため、サーチエンジンでのヒット数は少なくなると考えることができます。ですが逆に、とくに「それほど気にする必要はない」と考えのほうが大勢ならば。「書類を書く」ということばが、サーチエンジンでも十分なヒット数があるという結果が得られるはずです。
そういったわけで。ためしにgoogleで検索してみると、に対して- 「書類を作る」——約 473,000 件
- 「書類を作成する」——約 294,000 件
- 「書類に記入する」——約 28,000 件
- 「書類に記載する」——約 5,770 件
という結果でした。
(2008年4月現在。調べたのは終止形だけ。)
この結果から考えると。「書類を書く」というフレーズは、それほど嫌われているわけではなさそうです。まあ、さすがに1位の「書類を作る」には及びませんでしたけれども。かりに10人いたとしたら、3人は「書類を書く」という書きかたをするということです。つまり、それだけの数の人が、「書類を書く」という表現でも「問題ない」と思っているのではないかと推測されます。
さらにいうと。歩道を歩く
といったフレーズを見ると。こんなのは、どのように言いかえたらいいのか悩んでしまいます。
たとえば。歩道を進む
というふうに、ことばをチェンジしてみる。
たしかに、この表現ならば。はなしの流れでもって、ある程度のフォローがあれば大丈夫だと思います。
なのですが。- 歩道を(自転車で)進む
- 歩道を(猛スピードの駆け足で)進む
という読みとりかたをするヒトが、1人や2人は…? と考えてしまいます。
そういったわけで。
少なくとも、日ごろの生活の中では。「歩道を歩く」という言いかたをしたほうが無難だろうと、思ってしまうのです。
このような考えから。結論としては、- かりに、もしも「慣用重複」となるような表現であっても、
「漢語」で使ったことばを、もう一度「和語」で使うのであれば、問題ないことが多い
ということができます。
『言語遊戯の系譜』(綿谷雪/青蛙房)という本には、こういった「漢語と和語で同じことばを使っている」例が、いくつかあげてあります。
たとえば、という表現。「定=さだめ」というのがダブっていることになります。
ほかにも、などなど。いろいろ紹介されています。
以上、まとめると。「慣用重複」のフレーズだとしても、「漢語」を「和語」で重ねている場合であれば問題はない。
(むしろ、「慣用重複」を使わない言いまわしを考えるほうが大変なこともある)
ということになります。