この「黙説法」を突きすすめると、果たしてどうなるか。それをちょっと考えてみましょう。
まず。
コミックスでの「枠組み」というのは、「ふき出し」だということができます。
ですので。
「枠組み」だけを残すということは、「ふき出し」だけを残すということになるといえます。
いいかえると。
「黙説法」というレトリックを、コミックスで究極まで押しすすめていくと。それは結局、「ふき出し」だけが残っていて、「ふき出し」の中に何も文字がないということになりそうです。
右の引用は、『美女が野獣』(マツモトトモ/白泉社 花とゆめCOMICS)から。
高校生の「操」は、同じ高校の1年生「藤田」から告白された。そのときの様子を回想しているのが、引用のシーンです。
1コマ目。
「藤田」は、なにか話をしているはずです。告白の言葉として、なんらかのメッセージを伝えようとしているはずです。
なのに、まっしろ。「ふき出し」の中に文字がない。
ではどうして。
こんなふうに「ふき出しの中身が真っ白」っていう表現を使ったのか、ということを考えると。
それは。「操」が- 「告白のことば」を言っていたらしいのだけど、
- そこには集中していなかったので、
- よく覚えていない。
- もしくは、はじめから聞いていない。
ということを表したいからだ、ということができます。
いちおう「告白をされた」、ということは間違いないみたいです。そのことは、この話を聞いた「涼」が、と言っていることから知ることができるからです。
ようするに、コミックスで「黙説法」を突きつめていくと。
最後には、このような「ふき出しだけ」というカタチになるのではないかと思われます。
なお。
「操」は、「藤田」の告白をOKした理由として、体
といっています。
これは、誤解をまねくような表現だと思うので、ちょっと書きくわえておくことにします。
結論からいえば。
「操」は、「肉体美フェチ」だといって間違いありません。ここで「操」が言っている「体」というのは、- どんな腰回り
- どんな胸板
- どんな首筋
- どんな鎖骨 (1巻72ページ)
といったような意味です。なので決して、「男の体」「女の体」といったような、いかがわしい意味をもっていることばではありません。まあ。たしかに「フェティシズム」ではあるだろうけれども。
ほかにも「操」は、武○士のCMで踊っている人たちのポスターを、部屋のカベに貼ったり
それについて、- 「あの鍛えた筋肉と細い足首のコントラストが
- 何とも こう…」
とコメントしたり。
まあ。そういったわけなので。
「操」にとって、告白の相手が持っていなければならない条件。それは、「顔かたち」でもないし、「告白の時の言葉」でもない。やっぱり「体」なのです。
まあ、そんなわけで。「ふき出し」が真っ白になっているわけです。