- 露理「あ そういえば多分
- ジャスティスがあなたの事
- 探してるわよ」
- ジャスティス(星に)「やぁ…キミに
- いいものを渡そう」
-『ドージンワーク』1巻108ページ(ヒロユキ/芳文社 まんがタイムKRコミックス)兼用法は、1つの単語をつかって、種類や性質の大きく違うことばを結びつけるレトリックです。1つだけあることばが、片方ではたらいている意味と、もう一方ではたらいている意味とで異なることになります。とくに「本来の意味」と「比喩の意味」とを兼ねているばあいを指すことが、多くあります。
「くびき語法」の手順で、ことばをくくり出す
- 基本的なことばの操作は、単純な「
くびき語法」のルールと同じです。手を加えないで書くと共通することになることばを、1つにまとめるということです。数学でいう、「カッコでくくる」という作業に似ています。
- :結びつける、つなげる、つなぐ、つなぎ合わせる、接続、共通因子、共通項、カッコでくくる、くくりだす、支配、束ねる、くびき語法
関わりあっているそれぞれの表現ごとに、意味が別々になるようにする
- ただし、単純な「
くびき語法」とは大きく違ったところがあります。それは、関わりあっているそれぞれの表現ごとに、意味が別々になるということです。つまり、結びついている片方で持っていた意味と、もう一方で持っていた意味とが異なっているということです。
- :意味が合わない、意味が一致しない、異なった意味、違う意味、違った意味、別の意味、別個の意味、別々の意味、意味的に異なる、意味の相違、意味を兼ねる、意味を兼用する、2役を演じる、2つの意味
1つの語の中に、意味が入り組んでいるということになる
- すぐ上に書いたことを、いいかえれば。2つの語に結びついている、くびきの元となっている1つの語。この1つの語の中に、意味が入り組んで錯綜しているということができます。
- :(意味が/意味論的に/意味の結びつきが)錯綜した、交錯した、入り込んだ、入り組んだ、入り乱れた、からまった、こんがらがった、もつれる、もつれ込む、ごたつく、こじれる
とくに、「本来の意味」と「比喩の意味」との結びつきを指すことが多い
- 「兼用法」というレトリック用語。これは多くのばあい、「本来の意味」と「比喩の意味」とが結びついているばあいを指すことになります。 というのは意味が大きく異なるように、くくり出す。そのためには、どうしても「文字通りの意味」にたいして、「比喩としての意味」という関係になりやすいからです。くわしくは【2.「本来の意味」と「比喩の意味」との結びつき】の項目をご覧ください。
- :「文字どおりの表現」と「比喩的表現」、「文字どおりの意味」と「比喩的な意味」、「本来の意味」と「転義的意味」、「字義的意味」と「比喩的意味」、「字義的意味」と「象徴的意味」、「基本的な意味」と「比喩の意味」、「本来的な意味」と「比喩的な意味」
結びつけていることばに距離があるほうが、より効果が大きい
- こういった「兼用法」の特徴を考えてみると。結びつけていることばに距離があるほうが、より効果が大きいということがいえます。
- :対照的、対する、相対する、対応、対比、コントラスト、対置、対峙、照らし合わせる、照合、離れる、かけ離れる、隔たる、隔てる、かけ隔てる、かけ隔たる、隔絶
「比喩」を使うときには、慣用化している必要がある
- たいていの「兼用法」では、「本来の意味」と「比喩の意味」とが結びついている。これは、上に書いたとおりです。なのですが、ここにはちょっとした問題があります。それは、「あまり奇抜な比喩は使えない」ということです。くわしくは、【3.「兼用法」の限界】の項目に記しておきました。ですので、そちらもご参照ください。
- :慣用、慣れる、使い慣れる、言い慣れる、聞き慣れる、見慣れる、耳慣れる、手慣れる、こなれる、習慣、習わし
- リナ「へーんだ
- あたしは
- いつだってどんな
- 姿してたって
- ちょ—— 魅力的
- だもんね♡」
引用は『スレイヤーズ(新装版)』から。
主人公は、“自称美少女魔道士”の「リナ」。
「リナ」たちは、この辺りで名を馳せている「盗賊B・T」を追いかけている。
盗まれそうになっていた「クリスタルの女神像」を取り返すことができた「リナ」。彼女に対して「盗賊B・T」は「美しい」と言ってくる。それが引用の場面です。という文。これが「兼用法」になっています。つまり、と、2つの表現が浮かび上がってくるのです。
そして。このうち「心を奪う」というのは、「気持ちを自分のものにする」という意味で使われています。ですが、「唇を奪う」のほうは、「キスをする」という意味で使われています。つまり、同じ「奪う」ということばでも、その示している内容が違うのです。
- 「くびき語法」のグループに含まれる、ほかのレトリック用語との関係
- 単純な「くびき語法」との関係
- 見た目だけの、ことばの操作を見れば。「兼用法」のやっていることは、単純な「
くびき語法」のものと同じです。共通することになることばを、くくり出す。そのくくられるコトバと、くくるコトバの間に、どういった関係になるか。その図で示してみました。
| 文法的に 正しいか | 意味的に 正しいか | 名称 |
くびき語法 (広義の) | ○ | ○ | くびき語法 (狭義の) |
△(本来の意味と比喩的意味) | 兼用法(異義兼用) |
△(具体的な意味と抽象的意味) | 異質連立 |
× | 意味論的破格くびき |
破格くびき |
× | ○ | 統語論的破格くびき |
くわしくは、下にある以降をご覧ください。
なおこのサイトでは、『レトリック事典』をもとにして定義づけをしています。
- 「破格くびき」との違い——それぞれには適合
- :それぞれには適合、おのおのには適合、各個には適合、ひとつひとつには適合、個別には適合、別個に適合
- 「異質連立」との違い——結びついているどちらの単語に対しても、対等な関係
という文は、「兼用法」とはいえません。ですが、それぞれに応じて「意味が違う」、といったときの「意味が違う」ということば。これは、かなりあいまいです。ことばの意味なんていうものは、どこからが同じで、どこからが違うとかいうことはできません。連続しているのです。
そのように考えると。「
くびき語法」のうちかなりのものが、「兼用法」に当てはまるということになりそうです。
- :いずれもが主要な意味、どっちも主要な意味、どれも主要な意味
- 「本来の意味」と「比喩の意味」との結びつき
- びついている一方との関係では「字義的な意味」。もう片方との関係では「比喩的な意味」。とまあ「兼用法」は、おおかたこんな具合になっているということです。
というのは。
意味が大きく異なるように、くくり出すとなると。どうしても「文字通りの意味」にたいして、「比喩としての意味」という関係になりやすいからです。
「兼用法」の例を書いてみると。- 「思惑だの褌(ふんどし)なんてえものは、えてして外れやすい」
- >——(五代目古今亭志ん生『びんぼう自慢』)
といったものが、あげられます。
これをよく見てみると、
- もとに戻すと、
- 「褌(ふんどし)が外れる」[[lio]]のほうは「本来の意味」
- ということができる。
- だけども、「思惑が外れる」のほうは
- 「比喩の意味」だ
ということができます。
このように。
それぞれの関係で、意味が大きく異なるように「兼用法」をつくっていくと。どうしても、「本来の意味」と「比喩の意味」という結びつきになるということです。
ですので。
とくに、「本来の意味」だったことばと「比喩の意味」だったことばを、ひとまとめにしてしまうばあい。このようなものが、「兼用法」の典型例となります。
- 「兼用法」の限界
- 「兼用法」にも限界があります。
それは何かというと、「比喩の意味」とはいっても、それほど奇抜なものは使えないということです。つまり、今までで見たことも聞いたこともないような比喩は、「兼用法」になれないということです。
なぜなというと、そもそも「兼用法」それ自体が「アクロバット的」だからです。つまり、いくつかあった意味の違う、とばを1つにくくったというだけで、十分に「文法のルールから外れた」ことをしていることになります。もしもかりに、ここで突拍子もない比喩をつかったとしたら。それは、ただ「意味不明な文章」になることでしょう。
そういったわけで「兼用法」につかわれる比喩は、よく知られた分かりやすいものでなければならないのです。
ためしに。「唇を奪う」をgoogleで検索してみる。すると、約22,100件ありました(2007年6月現在)。少なくとも、読み手・聞き手が何のことだか分かるくらいには世間に広まっているものでなければ、「兼用法」にはなれません。
- くくることばが「形容詞」の例
- 「兼用法」にかぎらず、「
くびき語法」によって1つにまとめられる単語は、ふつう「動詞」です。というか、ほとんど「動詞」です。
ですが。私(サイト作成者)が知っているかぎりでは1例だけ、「形容詞」の例文をのせているものがあります。それは、『レトリック小辞典』です。
この例文は、どこからみても「兼用法」にあたるものです。なので、ここに載せておきます。- 飛ぶ鳥の声も
- 聞こえぬ奥山の
- 深き心を人は知らなむ
- (古今集恋一・535 読人しらず)
この和歌は、「奥山が深い」ことと「人の心が深い」ことの「兼用法」です。つまり、「深い」という「形容詞」が1つにまとめられているわけです。1つは「奥山」、もう1つは「人の心」。どちらにたいしても、「深い」ということばが役目を果たしているわけです。
さらにいえば。片方の「奥山が」につかわれる「深い」は、「本来の意味」です。けれども、もう一方の「人の心が」につかわれる「深い」は、「比喩の意味」です。この部分でも、「兼用法」の条件にかなっています。
\数少ない例ですが、「形容詞」のタイプもあります。